機関誌150号の特集テーマ(2014年9月15日原稿締め切り)
機関誌150号(2014年9月15日原稿締切・2015年春刊行予定)特集テーマの予告

標準ドイツ語をめぐる諸方言と諸言語
(Neben Hochdeutsch ― Dialekte, Regional- und verwandte Nachbarsprachen)


*特集の趣旨
ドイツ語圏は、小国分立状態が長く続いたために近代統一国家の形成時期が遅く、それと表裏一体をなすように、伝統的地方文化の豊かさで知られている。こうした社会的要因は多数の方言の発達を促し、言語地理学的多様性を育む一因となった。低地ドイツ語 (Niederdeutsch)、上部ドイツ語に属するアルザスドイツ語 (Elsässisch)、スイスドイツ語 (Schweizerdeutsch) など、個性的な方言は少なくない。ルクセンブルク語 (Luxemburgisch) のように、20世紀後半に中部ドイツ語方言から公的に言語の地位に昇格した例もある。ドイツ語圏はまた、古くから北フリジア語 (Nordfriesisch)、ザーターフリジア語 (いわゆる「東フリジア語」、Saterfriesisch)、それにソルブ語 (Sorbisch) などの地域言語、イディッシュ語 (Jiddisch) のような特殊な少数言語をかかえており、他のほとんどのヨーロッパ諸国と同様に、二言語および多言語使用の問題と無縁ではない。歴史言語学的に見ると、ドイツ語は最初期においていわゆる西ゲルマン語を形成する3グループを内包していたと言われ、オランダ語 (Niederländisch) や北欧スカンジナヴィアの北ゲルマン語 (nordische Sprachen) に代表される近隣のゲルマン語圏との密接な言語接触のプロセスも特筆に値する。
これまでの日本のドイツ語研究では、標準ドイツ語の構造とその歴史的発達の究明に主眼が置かれてきた。一方、近年のヨーロッパでは、欧州連合 (EU) の形成と拡大に伴う政治的統合の流れから、国境の垣根が相対的に低くなり、伝統的地方文化、とりわけ地域的少数言語および諸方言の存在意義が急速に高まっている。新たな言語擁護の機運から数多くの努力が傾注され、社会言語学的にも内外から強い関心を呼んでいる。伝統的な歴史比較言語学に加えて、理論言語学においてもゲルマン語比較統語論 (comparative Germanic syntax) という新分野が開拓され、個別言語の枠を超えて一般言語学的に寄与する例も少なくない。最近では、標準ドイツ語を理論的に扱う際にも、ドイツ語方言や他のゲルマン語への言及がなされる事例が増えている。
本特集はドイツ語の諸方言、ドイツ語圏で用いられている autochthon な地域的少数言語、ドイツ語圏をめぐる英語を除くゲルマン諸語に焦点を当て、標準ドイツ語との関連を念頭に置いて、ドイツ語学の広がりと新たな可能性を模索することを目的とする。方法論的には、理論言語学、歴史言語学、言語地理学、さらには多言語使用、言語擁護、言語接触をめぐる研究など、とくに限定を加えず、多様なアプローチによる投稿を期待したい。