ラジオ外国語講座に関するNHKへの要望書

要 望 書


日本放送協会御中

外国語・外国文化・外国語教育に専門的に関わる立場から、私どもは、日本放送協会が誰でもどこでもアクセスできる公共放送として、永年にわたりテレビ、ラジオ両メディアをとおして外国語学習にとってきわめて大きな役割を果たしてきておられることに、真率な敬意と感謝の念を表するものです。
 なかでも、テレビの語学番組が言語ごとの放送時間に関して既に大幅に縮小された現在、ラジオ外国語講座は、多くの学習者にとって、かけがえのない役割を果たし続けています。とくに、熱心に学ぼうとする方々にとって、英語以外でも1日20分週6回の放送があるラジオ講座は、日々の学習のペースメーカーとしても貴重な存在です。聴覚を研ぎ澄まし、音からイメージをふくらませるという特長を持つラジオが、音声を本来の媒体とする言語の習得と修練にとって、テレビとはまた違った意味で貴重なメディアであることも見逃せません。また、とりわけ地方におきましては、ラジオ講座は、教室外で継続的に英語以外の外国語を学ぶための数少ない学習メディアのひとつです。
 聴取者は、外国語を大学で学習している学生や仕事で活用されるビジネスマンはじめ、旅行などで知り合った外国人と親交を深めようとする方、外国滞在から帰国しても当該の言語を学び続けたいと考える方、文学や音楽、美術などの関心から趣味で外国語を学ぼうとする方、子どもが外国人と結婚したため言語学習を始める方、また言語によっては旧制高校で接して以来の熱心な愛好家、さらには高校生や中学生にいたるまで、世代や職種を越えた幅広い層にわたっています。
 貴協会がラジオで多様な外国語の講座を毎日提供しておられることは、そういった広汎な需要に応える、公共放送ならではのまことに貴重な事業であり、私どもの各学術団体におきましても、貴協会の多大な貢献に感謝申し上げますとともに、番組制作にあたりましては、少なからぬ会員が最大限の協力をさせていただいてまいりました。

そのような中、このたび、英語を除くラジオ外国語講座の縮小が検討されていると聞き及び、深く憂慮いたしております。
 上記のような広汎な方々の学習においてこれまでNHKラジオ講座が果たしてこられた大きな役割を考えます時、万が一にも講座が縮小されるようなことがあれば、学習機会が激減し、わが国の外国語学習環境が著しく悪化する事態が生じかねません。仮に放送内容が大幅に縮小されるとするならば、入門編と応用編それぞれの内実が格段に手薄となることでしょう。そうなれば学習到達目標を現在よりも大幅に下げざるを得ず、とりわけ入門編については、その後自分でテクストを読んだり簡単な会話をしたりしてゆくために必要最小限の知識を身につけるにも事欠く状態となることは必定です。また言語学習だけでなく文化などに関する情報を提供するという、重要な機能を果たす余裕もなくなってしまうことでしょう。それでは、外国語学習者が当然抱く期待に応えることが難しくなり、そもそもラジオ講座の存在意義そのものにかかわる事態となることが危惧されてなりません。
 言うまでもなく、言語はそれぞれの文化の土台であり、さまざまな言語が広く学ばれることは、社会全体として世界の多様性への目を養う着実かつ有力な道です。英語以外の外国語教育を縮小してゆくならば、世界への視野を狭めることともなりかねません。殊に現今の社会動向を考えますと、進行しつつあるグローバル化の中、かたよらず真に世界に開かれた豊かな文化を築き上げてゆくためには、多くの人が広汎に英語以外の外国語をも学び、さまざまな文化に直接触れてゆくことがきわめて重要であることが、あらためて認識されつつあるところです。また他方では、平均寿命の伸長にともなって、さまざまな形で生涯学習の機会を整えてゆくことが急務となっています。その意味でも、貴協会におかれましては、今後ともこれまで同様の大きな役割を外国語学習において果たし続けていただけますよう、切にお願いしたいと存じます。
 視覚をともなって会話状況での言語の運用を習得するのに優れた、テレビによる語学番組の充実とともに、ラジオ講座では、現在開講しておられるすべての外国語について、現状の質的・量的なレベルを維持されることを、心より要望申し上げる次第です。


2007年4月5日


イタリア学会会長 長神 悟
韓国・朝鮮文化研究会会長 吉田光男
中国語教育学会会長 古川 裕
朝鮮語研究会会長 福井 玲
日本イスパニヤ学会会長 高橋覚二
日本中国学会理事長 丸尾常喜
日本中国語学会会長 木村英樹
日本独文学会会長 松浦 純
同ドイツ語教育部会長 三瓶愼一
日本フランス語教育学会会長 立花英裕
日本フランス語フランス文学会会長 塩川徹也
日本ロシア文学会会長 井桁貞義
日本ロマンス語学会会長 富盛伸夫