機関誌144号特集テーマの案内
機関誌144号特集テーマの案内


機関誌『ドイツ文学』では2012年春刊行予定の144号(和欧混合誌)の特集テーマとして「身体文化Körperkultur」を掲げて原稿募集を開始します。詳細は下記の和文およびドイツ語による概要をご参照ください。応募なさる方は、機関誌末尾の「応募要項」に基づき、2011年9月15日までに学会事務局まで原稿をお送りください。なお、144号は和欧混合誌で、和文・独文いずれの原稿の応募も可能です。また特集は依頼原稿をもとに組まれますが、テーマの趣旨に沿った投稿原稿も大いに歓迎しています。特集テーマ以外の一般投稿も受け付けます。

[概要]
20世紀の身体文化の隆盛に大きな影響を与えたニーチェは、文化を「正しい箇所」から、つまり「魂」ではなく、「身体、身振り、食事管理、生理学」から始めることが決定的意味を持つ、と述べています。彼は、「認識」も何らかの真理に基づくのではなく、長期における反復によって「血肉化」された習慣であると考えていました。つまりニーチェは、文化現象全体を、身体という視角から考察しようとしていたのです。
18世紀末には登場していた「身体文化」という用語は、養生法や衛生、身体形成、体育、などの意味の歴史的変遷を経て、20世紀初頭から1930年代には、身体に関する文化的諸現象の総体を意味するようになります。当時のドイツ語圏には、このような意味での身体文化が、文学、芸術、スポーツ、教育、医学、性、労働、余暇、ファッション、政治、軍事など、多様な領域を包摂する形で存在しました。第二次大戦後になると、この用語は、主に社会主義圏で用いられるようになります。
現代では、政治、経済、宗教、思想、教育、技術、芸術、メディアなどが交錯する人間の根源的な領域として、身体は再びクローズアップされつつあります。新型インフルエンザをめぐる混乱や、脳科学の進展による身体観の揺らぎなどは、まさにアクチュアルな問題です。また電子的テクノロジーによって、身体そのものが実在感のない、ヴァーチャルなものになった、という議論もあります。死生学、身体的記憶や身体資源などの新しい学問分野やテーマにも注目が集まっています。このように、身体観や身体感覚が大きく変化しつつある時代にあって、ドイツ語圏の文学や文化を、身体文化という枠組みによって捉え直すことは、意義深い試みであると思われます。
本特集で取り上げることの可能な主題としては、たとえば以下のようなものがあります。中世の身ぶり、身体文化としての建築、演劇、音楽、舞踊、映画、あるいは身体と記憶、身体と文化的越境、身体文化とジェンダー、など。また個別の作家としては、ヴァグナー、ニーチェ、トーマス・マン、ホーフマンスタール、ムージル、カフカ、ベンヤミン、フロイト、カネッティ、H.フィヒテ、イェリネクなど。