<阪神ドイツ文学会>阪神ドイツ文学会第230回研究発表会のご案内
第230回研究発表会のご案内

標記の研究発表会を下記のように開催いたしますので、多数ご参集いただきますようご案内申し上げます。

日時: 2019年11月23日(土・祝)13時30分より
場所: 神戸女学院大学 デフォレスト記念館 D-208教室(2階)
所在地:〒662-8505 兵庫県西宮市岡田山4-1
会場アクセス:阪急今津線門戸厄神駅徒歩10分
(詳しくはこちらのサイトに案内がございます。https://www.kobe-c.ac.jp/access

発表1 別府陽子(大阪大谷大学)
題目:『ブッデンブローク家の人びと』にみるTh.マンのディレッタント観―クリスティアン・ブッデンブロークを中心に
司会 田村和彦(関西学院大学)
要旨:トーマス・マンのディレッタント観は、近代のディレッタントを「知的な享楽主義者」というポール・ブールジェの影響を受けているが、さらにマン独自の考えも持っているといわれている。マンは1915年に、あるエッセイで、ディレッタントと比較して芸術家はイデアと目に見えるものを統合すると記している。
クリスティアンの得意の模倣や話術は芸術のレベルに達しておらず、イギリス仕込みの英語も仕事に活かせない。大学、劇場、社主の座を、眺めて楽しむ場と考えている。死を恐れて家族の臨終に立ち会うことを避けるが、自己の身体の痛みにこだわる余り神経症になる。そして、体内に不気味な物音を感じるがそれを追求することはない。クリスティアンがイデアと目に見えるものを統合することができないために、ディレッタントに留まるのである。

発表2 田村和彦(関西学院大学)
題目:レーベレヒト・ミッゲと「緑」のアヴァンギャルド 
司会 孟真理(神戸女学院大学)
要旨:レーベレヒト・ミッゲLeberecht Migge(1881-1935)は20世紀初めから戦間期にかけて活躍したドイツの庭園設計者である。造園術(Gartenkunst)はバロック時代から建築学の下位分野として位置づけられてきたが、20世紀初めには公園緑地など、都市のオープンスペースの設計や、大規模な住宅開発にもかかわるようになる。その先駆者がミッゲであり、1913年に出された『20世紀の庭園文化』以降、個人の庭をはじめ、公共施設の緑地、公園、田園都市、ジードルング(集合住宅)、墓地にいたるまで、緑地にかかわるさまざまなプロジェクトに関わり、きわめて大胆な提案を行った。「緑のミッゲ」と評される所以である。
 この発表では、ミッゲの独自の緑地観を「社会的緑(地)」(das soziale Grün)という概念を梃に掘り起し、それが戦間期ドイツにおいてどのような意味を持っていたかを解明したい。特に注目したいのは、B.タウト、M.ヴァグナー、M.エルゼッサーら建築家との協働で設計された大規模なジードルングで、ミッゲの理念はそこで部分的に実現された。ほかにもグロピウスやコルビジェらバウハウスのメンバーとのかかわりにも言及する。
 なお、ミッゲとその業績については日本ではほとんど知られていないので、ドイツ語のWikipediaによる記事を事前に見ておいていただければ幸いである。
https://de.wikipedia.org/wiki/Leberecht_Migge

発表3 湯淺英男(神戸大学)
題目:無生物主語lassen使役構文をめぐる文法的諸相 ― Sie[=Schnellzüge] lassen den Zwiebelturm der Kirche Pfeifferings beiseite liegen, [...]の成立条件をどのように理解すべきか
司会 小川敦(大阪大学)
要旨:Eisenberg (1999)の文法書でもlassen使役構文については、Karl lӓßt mich arbeiten.という例が引かれ、permissiv及びdirektivな意味が挙げられている。ポーランド生まれの言語学者Wierzbicka (1998)もナチス時代の建築家A. Speerの日記の使役文を英語訳とも比較対照しながら、使役文のuniversal human conceptとして、定式Person X ließ (let / made / had / asked etc.) person Y to do Z.(言語形式としてはいささか非文法的に見えるが)を提案する。このように使役構文の典型は、多くの文法学者によって「人」から「人」への「容認」や「指示」として理解され、日本の文法教科書でもそれが踏襲されている。Fillmore (1992)は、「いかに小規模なものであっても、これまで調査に使用したコーパスはすべて、コーパスなしでは想像できなかった事実を私に教えてくれた」(石川訳、2014)と述べているが、本発表では、将来的にさらに大きなコーパスでの調査を期待しつつ、極めて限られた文学作品のコーパス、Th. MannのDoktor Faustusを用いて、主語及び目的語における「人」・「無生物」の区別、不定詞の自動詞・他動詞などの区別に着目し、まずはlassen使役構文全体を概観した上で、これまで典型的とは見做されてこなかった無生物主語lassen使役構文の成立条件について考察してみたい(因みにDoktor Faustusのlassen使役構文の内、約27%は無生物主語)。また一般に解釈が難しいと考えられるSie[=Schnellzüge] lassen den Zwiebelturm der Pfeifferings beiseite liegen, [...] (Doktor Faustus) といった使役文についても、Unsere Dozentin ließ vor Schreck die Kreide aus der Hand fallen.(高橋 2012)を手掛かりに、その構文成立の理由を探ってみたい。

(※ 急な変更や中止の際は以下の公式ブログでお知らせします。)
阪神ドイツ文学会公式ブログ http://hsgm.exblog.jp/