<阪神ドイツ文学会>第223回研究発表会のご案内
以下の研究発表会を開催いたしますので、ご案内申し上げます。
阪神ドイツ文学会会員以外の方のご参加も歓迎致します。参加費は無料です。

日時: 2017年7月1日(土)13時30分より(土曜日開催
場所:立命館いばらきフューチャープラザ 1Fカンファレンスホール
所在地:〒567-8570 大阪府茨木市岩倉町2-150
*JR茨木駅下車徒歩5分
(詳しくは末尾の案内図および以下のサイトをご覧ください。)
http://www.ritsumei.ac.jp/futureplaza/access/
    

1.研究発表会

発表1:別府陽子(大阪大学大学院博士後期課程単位取得退学)
題目:『ブッデンブローク家の人々』―『悲劇の誕生』のパロディとして
司会:田村和彦(関西学院大学)
発表要旨:
トーマス・マンは『非政治的人間の考察』の「内省」の末尾において、「偉大なドイツ的自叙伝を、詐欺師の回想録という形でパロディ化するまでに至った人間は[…]」と語っている。この言葉を根拠にして、マンのパロディの試みは、1910年に執筆が開始された『詐欺師F・クルルの告白』以降とされてきた。しかし『ブッデンブローク家の人々』の原稿審査係は、審査段階でこの作品における風刺的でグロテスクといったパロディの要素を指摘している。さらに、ベレンドゾーンは作品におけるフモールのあるパロディ性を認めており(1965)、E. ヘラーはトーニ・ブッデンブロークを「生のパロディ」と論ずる(1970)。
『パロディの理論』の著者ハッチオンは、読者を重視する間テクスト性理論に対して、パロディ研究は作者の立場を重視すると主張する。この考えに基づいて『ブッデンブローク家の人々』の作者であるマンの立場を考察するならば、彼が執筆前に兄と共に、生家の没落に際し冷たかった市民を嘲笑する小説を構想していたこと、さらに、当時流行していたニーチェの強い生の賛美に批判的であったことが指摘される。このふたつの動機を持つマンは、『悲劇の誕生』(1872)におけるギリシア悲劇の誕生と没落等の諸要素を、市民階級の没落の物語にパロディ化したと考えられることを本発表で述べたい。


発表2:田島昭洋(大阪市立大学非常勤講師)
題目:ウィーン市民社会の象徴としてのシューベルト
― 「自作演奏会」を手がかりとして ―

司会:広瀬千一(大阪市立大学名誉教授)
発表要旨:
フランツ・シューベルトは生涯最後の年にただ一度(1828年3月26日)、みずから企画し運営する営利目的の(全曲シューベルトの作品からなる)「自作演奏会」をウィーンで開催した。これはシューベルトにかつてない利益をもたらし、彼の集大成的な社会的成功例となっている。しかし、同時期にウィーンで行われた演奏家パガニーニのコンサートツアーに話題をさらわれたこともあり、一般的にこの演奏会についてはメディアの関心は低く、またプログラムが歌曲や重唱を中心とした小規模なものであり、社会的な影響も小さかったとされる。だが本来1824年のベートーヴェンの交響曲『第9番』の自作演奏会に刺激されたものであったことから、当初は楽曲規模の大きなものが目指されていたと考えられ、また当時の小規模演奏会としては異例の客入りと収益を実現している。そこで本発表では、シューベルトが自作演奏会を開くに至った経緯を見、プログラムから彼が大規模演奏会に対して抱いていた意識を探り、ベートーヴェンとパガニーニのコンサートとの比較検証を加えながら、その社会的な影響を改めて考える。自作演奏会のプログラムについては、これまでまったく研究対象となっておらず、したがってプログラムを詳細に分析することによって、形成期ウィーン市民社会に生起したさまざまな現象に市民サイドから触れた象徴的存在としてのシューベルトの役割を明らかにしたい。


2.朗読会

朗読者:Vea Kaiser 氏
朗読作品: Blasmusikpop oder Wie die Wissenschaft in die Berge kam
司会:柏木貴久子(関西大学)
Vea Kaiser:オーストリア、ペルテン(Pölten)生まれの作家。ウィーン大学とヒルデスハイム大学でドイツ文学、古代ギリシア語、文化ジャーナリズムを専攻。2012年に第1作目の文学作品 Blasmusikpop oder Wie die Wissenschaft in die Berge kamがオーストリア放送月間最優秀作品賞、また、2013年、フランス、シャンベリー国際文学フェスティバルにおいてドイツ語デビュー作品部門最優秀賞を受賞、2014年には読者からその年の最優秀作家に選ばれるなど、文壇デビュー直後からきわめて高い評価を得ている。また同年に初の戯曲、 Die Argonauten、2015年には2作目の小説、 Makarionissi oder Die Insel der Seligenを発表、Kurier誌にコラムを連載するなどオーストリアの新世代作家を代表する存在として注目を集めている。