<阪神ドイツ文学会>第221回研究発表会のご案内

阪神ドイツ文学会第221回研究発表会のご案内



以下の研究発表会を開催いたしますので、ご案内申し上げます。
阪神ドイツ文学会会員以外の方のご参加も歓迎致します。参加費は無料です。

日時: 2016年7月2日(土)13時30分より(土曜日開催です。)
場所: 関西大学 第1学舎5号館603教室

所在地:〒564-8680 大阪府吹田市山手町3丁目3番35号Tel. (06) 6368 1121代表)
*阪急電車千里線「関大前」駅下車、徒歩約8分(会場教室まで)。
詳しくは以下のサイトをご覧ください。
http://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/mapsenri.html

(第221回研究発表会は関西外国語大学での開催が予定されていましたが、諸般の事情により会場が関西大学に変更になりました。)

急な変更や中止の際は、以下の公式ブログでお知らせします。
阪神ドイツ文学会公式ブログ:http://hsgm.exblog.jp/

発表1:竹田利奈(関西学院大学博士後期課程)
題目:ヴァーグナーの初期作品における女性像の考察 ―『さまよえるオランダ人』と『タンホイザー』を中心に ―
司会:木野光司(関西学院大学)
発表要旨:

リヒャルト・ヴァーグナーは、外国のオペラの模倣ではない独自のオペラ様式を確立しようと、『さまよえるオランダ人』(1843年初演)、『タンホイザー』(1845年初演)、『ローエングリン』(1850年初演)を創り出した。これらは通称「ロマン派三部作」と呼ばれている。その内の二作品『さまよえるオランダ人』と『タンホイザー』は、不幸な男性主人公が、純潔で貞節な女性の死によって救われるという筋において共通している。二作品の主人公、オランダ人とタンホイザーは共に、共同体から孤立したアウトサイダーとみなされている。そして、彼らの救済者となるゼンタやエリーザベトは、それぞれの社会の価値を身に付けた貞淑な女性の代表と位置づけられるのが常である。しかし、ゼンタとエリーザベトに注目すると、このような女性像は必ずしも二人の本質を的確に言い当てているとは言えないと考えられる。本発表ではこの二作品に登場する女性たちに着目し、ヴァーグナーがゼンタやエリーザベトの女性像に託した意味を読み取ることを試みる。

発表2:田島篤史(関西大学大学院博士後期課程)
題目:H.インスティトーリス『魔女への鉄槌』における「契約」概念
司会:長谷川健一(大阪市立大学)
発表要旨:

中・近世ヨーロッパを象徴する魔女狩りは、ドイツ語圏において最も猖獗を極めた。15世紀中葉以降、悪魔や悪霊、そして魔女は次第に学問的に論じられるようになったが、こうした知識体系は後に悪魔学と呼ばれ、魔女狩りに理論的根拠を提供した。本発表では数ある悪魔学書のうちで最も有名なH.インスティトーリス『魔女への鉄槌』(初版1486年)を取りあげる。本書は聖俗両権力から支持されたのみならず、後代の悪魔学者たちがこぞって引用したことから、ヨーロッパにおける魔女認識の基底をなし、魔女狩りを激化させたと考えられている。
1560年代以降、ドイツでは魔女裁判件数の急激な増加とともに、魔女犯罪は次第に画一化されていく。当時、魔女の罪で重要視されたものの一つに「悪魔・悪霊との契約」があったが、インスティトーリスは『魔女への鉄槌』においてすでにこの「契約」概念を、締結方法・条件・対価などにより区別される複合的な概念として論じていた。本発表では、これまで等閑視されてきた「契約」概念の考察を通じて、魔女と悪魔・悪霊との関係、および人間が魔女になる過程を明らかにすることで、魔女迫害論者による理論的正当性とはいかなるものであったのかを示したい。

発表3:西出佳代(神戸大学)
題目:ルクセンブルク語におけるlux. ginn (nhd. geben) の文法化
司会:吉村淳一(滋賀県立大学)
発表要旨:

ルクセンブルク語における lux. ginn (nhd. geben) は、本動詞「与える」(1a)として用いられる他、起動相のコピュラ 「〜になる」(1b)や迂言的な接続法表現の助動詞(1c)としても用いられる。さらに、本動詞としては逆方向の意味を有する受益者受動の助動詞 lux. kréien (nhd. kriegen)「得る/〜してもらう」とともに(1d)、直接受動の助動詞「〜される」として(1e)、受動文において用いられる。

(1) a. lux. Ech ginn der e Buch. (nhd. Ich gebe dir ein Buch.)
b. lux. Ech gi krank. (nhd. Ich werde krank.)
c. lux. Wann ech Zäit hätt, géif ech hei bleiwen.
(nhd. Wenn ich Zeit hätte, würde ich hier bleiben.)
d. lux. Ech krut dat zur Verfügung gestallt.
(nhd. Ich kriegte das zur Verfügung gestellt.)
e. lux. Ech gi gesinn. (nhd. Ich werde gesehen.)
※ (1b, e) におけるlux. ginn の語末の -nn [n] は音韻規則「n-Regel」により脱落。

 「与える」という意味の動詞が受動の助動詞へと文法化を起こす例は通言語的にも稀だが(Nübling 2006: 172 ff.)、本発表では、他のゲルマン語と比較しながら lux. ginn の文法化の過程を追い、受動の助動詞を含む多機能の動詞へと文法化が起こる過程において、同語彙のコピュラ化及び lux. wäerten (nhd. werden) の推量の助動詞への文法化と単機能化が重要な要因であることを主張する。