<東京演劇アンサンブル>『最後の審判の日』公演のお知らせ

東京演劇アンサンブル『最後の審判の日』公演のお知らせ
Ödön von Horváth: Der jüngste Tag
Die Aufführung des Tokyo Engeki Ensembles am Brechtraum Tokyo


アンナ: 駅長さん、心の声はもう聞こえなくなっちゃった?


 劇作家エデン・フォン・ホルヴァートといえば、『カージミルとカロリーネ』や『ウィーンの森の物語』など、新しく継承された〈民衆劇〉の作品がよく知られている。また実際に、批評家ライヒ=ラニツキーや演劇研究者ケスティングらのように、後期戯曲は厳しい亡命生活による作家の筆力の低下と見なし評価しない向きもあった。しかしながらユダヤ系作家フランツ・ヴェルフェルは、これら中期の作品群を逆にまったく認めておらず、作者を長らく愛のない、不毛で、無慈悲な眼差しをもった劇作家だと否定的に捉えていた。ところが、その同じ作家から初めて価値を持つと思われる重要な作品が生まれたと感じられ、その延長線上に素晴らしい後期の作品群『神なき青春』などが生まれ、最終的にパリでの劇作家の不幸な事故死によって突如中断されたと回想している。その作品こそが、このたび公家義徳演出によって東京演劇アンサンブルで本邦初演される戯曲『最後の審判の日』である。
 ナチズムという殺伐とした時代状況の田舎町、主人公フーデツはただひたすら職務に忠実な駅長であり、十三歳年上の奥さんともうまくいっていない。二人の愛のない夫婦生活は町中で噂になっている。そんな中で、居酒屋の娘アンナがある夜、興味本位からフーデツにキスをする。とたんに信号機の合図を出しそびれたことが原因で、準急列車と貨物列車が正面衝突、十八人の犠牲者を出すことになる。しかしファシスト的な小市民であるフーデツは自らの過ちを認めようとはしない。人知れず罪と責任を共有する二人。だが一連の事件の経過の中で、次第に彼には「心の声」が聞こえ始める――。
 後期ホルヴァートを決定づけた戯曲『最後の審判の日』は、日本でも有名なミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』とまったく同じ時代背景を持っている。すなわち、ナチス・ドイツに併合される前夜のオーストリアである。人間としても当時のホルヴァートは、作家フランツ・テーオドア・チョコルとの親しい交友から重要な示唆を受け、いかなる条件下でも人間は変わりうること、また人間は罪を認めることで初めて救済されるのだという思想を独自に深めていく。社会批判的な〈民衆劇〉では小市民を観察する冷酷な傍観者の立場に徹していたホルヴァートは一転して、罪過と贖罪という人間の心の問題と真正面から取り組むことになるのだ。
 この劇作家の生前最後に上演された戯曲(チェコで初演)は、戦後最初に上演された戯曲でもある。最近でも2000年のウィーン・ブルク劇場におけるアンドレア・ブレートの演出、2009年のロンドン・アルメイダ劇場におけるジェームズ・マクドナルドの演出などが注目を集めている。また作曲家ギーゼルヘア・クレーベによるオペラ作品までもが存在する。今回の演出では、ナチ時代を我々の時代とも重ね合わせながら、劇作家が遺した謎に満ちた作品から、人間性をめぐる深遠な問いかけをともに考えている。スタッフにもベルリン帰りの新進気鋭の舞台美術家・香坂奈奈や、長久真実子によるチェンバロの生演奏を起用。第三帝国という非人間的な時代に考察された愛や連帯、個人の罪や良心をめぐる問題と向き合う。オーストリアの戯曲に興味のある方は、ぜひ芝居小屋まで足を運んでいただきたい。


 『最後の審判の日』
 作:エデン・フォン・ホルヴァート
 訳:大塚直
 演出:公家義徳

 日時: 2016年 3月9日(水)~21日(月・休) 
 開演: 14:00~  3月12日(土)、13日(日)、16日(水)、19日(土)、20日(日)、21日(月・休)
      19:00~  3月9日(水)、10日(木)、11日(金)、15日(火)、17日(木)、18日(金)
 会場: 「ブレヒトの芝居小屋」 〒177-0051 東京都練馬区関町北4-35-17
 料金: 当日4500円  前売り(一般)3800円  前売り(学生)3000円
*割引のご案内: 日本独文学会会員の方には、前売り料金からさらに500円を割引いたします。
ただし、15日(火)と16日(水)はロープライスデーにつき、一律2500円です。
開場は開演の30分前。
全席自由(チケット申込・発売時に整理番号を発行、整理番号順の入場となります)

詳細はwebで。URL: http://www.tee.co.jp

■チケット申し込み:
 東京演劇アンサンブル/ブレヒトの芝居小屋
 制作:小森明子・太田昭
 〒177-0051 東京都練馬区関町北4-35-17
 Tel.03-3920-5232/Fax.03-3920-4433/e-mail:ticket@tee.co.jp

文責:大塚直(翻訳者)