第58回「ドイツ現代文学ゼミナール」に参加して(T. Okayama)[J]   作成日:2012/07/03
2012年3月28日から29日にかけて、箱根町強羅の静雲荘で第58回「ドイツ現代文学ゼミナール」(以下、「現文ゼミ」と略す)が開催された。この場をお借りして、一人の参加者の視点からゼミの紹介も兼ねて簡単な報告をさせていただきたい。
現文ゼミは1983年に始まり、毎年2回、春と夏に開催されている。春は箱根、そして夏は長野県大町市八坂の明日香荘で行うのが恒例となっている。2日間行われる合宿には、毎回30名~40名が参加している。昨年の春は東日本大震災の影響で第57回が夏に延期となったが、来年はいよいよ60回目を迎える。

このゼミはその名の通り、ドイツの現代文学を扱う。ゼミ発足当初は、戦後の、主としてグルッペ47の作家に焦点が当てられていたが、いまでは「現代」という時代をより広く捉え、20世紀以降のドイツ文学を扱うという共通理解に落ち着いている。

このように比較的広い時代を扱うとはいえ、現文ゼミの最も大きな特徴を挙げるとすれば、それはやはりドイツ文学の「現在」について考える試みとして長年続けられている「共通テキスト」だろう。毎回ゼミの幹事の方が、過去1年以内に発表された散文作品を「共通テキスト」として選定し、参加者はゼミの開始までにその作品を読んでくる。新しい文学作品とはいっても、すでに確固たる地位を確立している作家の作品が選ばれるわけではない。いくつかの文学賞を受賞してはいるものの、まだ作家としては駆け出しといってもいい若手作家の作品が意図的に選ばれている。そのため、先行研究はほとんどの場合存在せず、参加者が「共通テキスト」を読む際に参考にできるのはたいてい書評程度ということになる。しかし、その方がかえって先入観なしに作品を読むことができるし、いざゼミの場で、参加者それぞれの読み方と自分のそれとを比べながら、一緒に自由に議論するのは毎回の楽しみである。

今回の「共通テキスト」は、1943年生まれでベルリン在住の作家カーリン・ケルステンの3作目の小説『眠ることなど考えられなかった』(注1) であった。2011年4月には南西ドイツ放送(SWR)書籍ベストリストで第1位を獲得している作品である。ケルステンは長い間翻訳家として仕事をしてきており、これまでスーザン・ソンタグやヴァージニア・ウルフの翻訳を手掛けている。作家としてのデビューは2005年、60歳を過ぎてからということでかなり遅かったといえる。

今回の「共通テキスト」となったケルステンの小説では、閑古鳥の鳴くベルリンの探偵社スフィンクスが舞台となっている。久しぶりに舞い込んだ依頼は、スフィンクスの女社長オーダの元恋人アルベルトからのもので、失踪した母を探して欲しいというものであった。社長の他、若手メンバー2人を中心にすぐさま捜索が開始されるが、そこから推理小説のような劇的な展開が待っているわけではない。捜索依頼は大きな事件に発展することもなく、無事解決をみる。だが、こうした筋書きは、この小説においてはどうやら副次的な意味しか与えられていない。むしろ、失踪人を「探す」ことを任務とする探偵社のメンバーが、捜索と並行する形で自分の過去を振り返り、自らの生き方こそを「探し」、それについて省察を重ねていく様子がこの小説では中心に置かれている。捜索の依頼者を除き、すべての登場人物は社会における成功者というよりは、キャリアという点においては挫折を味わい、当初の夢を実現できていない人物たちばかりである。しかし、彼らは自らの置かれた状況に絶望したり、それを嘆くわけでもなく、それをそれとして受け入れた上で新たな自己への脱皮を図っていくのである。この小説において筆者にとってもっとも印象深かったのは、ケルステン独特のユーモアを交えた文体である。重いテーマを扱いながらも小説全体が重苦しくならないのは、要所要所でいわばガス抜きの役割を果たしている彼女のユーモアに負うところが大きいのではないだろうか。これはあくまで筆者個人の印象であるが、ゼミの場ではケルステンの作品をめぐって実にさまざまな読みの可能性について議論が交わされた。その議論への導入の役割を担っているのが、「共通テキスト」の部の2人の発表者である。発表者には作品の全体像や構造について、そして、全体での議論につながるようなポイントをいくつか挙げていただくことになっているが、今回も興味深い視点をいくつもご提示いただいた。そして全体の議論では、この小説を女性の物語として読む試み、あるいは老いの問題と結びつけて読む試みなど、筆者も思いつかなかった読みの可能性が発表者、参加者の皆さまから次々に出され、今回も大変活発でオープンな議論が交わされた。

ところで、この間久しぶりに以前のゼミで配布されたこれまでの「共通テキスト」の一覧のプリントを引っ張り出してみたが、それに目を通していると、一方では、いまではほとんど名前を聞かなくなっている作家が多いことに気づく。しかし、同時に、例えばモニカ・マローン(1994年3月、第24回「共通テキスト」Stille Zeile Sechs)のように、その後確固たる地位を築いた作家の名前をいくつも見つけることができる。今回取り上げられたケルステンが10年後には果たしてどのように評価される作家となっているのか、気になるところである。

もちろん、現文ゼミは「共通テキスト」だけではない。ゼミ初日の夜、そして翌日の午前中には個人の研究発表の場も用意されている。ここでは詳細な紹介は控えるが、今回はクリスティアン・クラハト、ユリア・フランク、ダニエル・ケールマンという現在のドイツの若手作家たちについてのいずれも大変興味深い発表を聞くことができた。ご発表いただいた成果がいずれわれわれの目に触れられる形でまとめられることを切に願う次第である。

さて、ここまでは「共通テキスト」を中心に現文ゼミについて述べてきたが、最後に筆者とこのゼミとの出会いについて少しだけ述べさせていただきたい。初めて現文ゼミに参加したのは、10年以上も前の2001年であった。当時は大学院生だったが、所属していた研究室の規模は小さく、指導教官を除けば、ドイツの現代文学を専門にする人が周りにほとんどいないという状況であった。このような環境に身を置いていた自分にとって、現文ゼミは関心の近い研究者の方々と出会い、交流するまたとない場となった。初日の「共通テキスト」の部に先立って、参加者全員の自己紹介が行われるのが恒例となっているが、そこでは所属と名前だけを言うのではなく、自分の研究対象や最近の研究成果について、あるいは催し物の宣伝など、自分のことを積極的に紹介・宣伝する場が設けられている。最近は自己紹介だけで1時間近くかかることもあるが、それはこのゼミでは参加者同士の情報交換、交流が重視されていることの表れともいえるだろう。ゼミに参加し始めた当初は、多い時には50名を超える参加者がおり、大学院生の参加者も毎回10名を超えていた。その後大学院生の参加者が減った時期もあったが、今ではまた増加に転じている。ゼミのさらなる活性化という意味においても今後さらに大学院生の参加者が増えることを願っている。現文ゼミは会員などの制度的仕組みを一切持たず、三人の幹事の方の献身的なご尽力により支えられている会である。そして、ドイツ語圏の現代文学に関心のある方ならどなたでも参加可能である。もちろん、専門が現代文学である必要もない。

次回の現文ゼミは2012年8月28日から29日にかけて春と同じ箱根町強羅の静雲荘で開催される予定である。いつものように長野県で開催されないのは、これまで夏に利用してきた施設が利用できなくなったためである。一人でも多くの、とりわけ大学院生などの若手の参加者が増えることを願いながら、以上をもって簡単なご報告とさせていただきたい。

「ドイツ現代文学ゼミナール」問い合わせ先: 渋谷哲也 E-mail: t-shibu@cam.hi-ho.ne.jp

岡山具隆(上智大学非常勤講師)

―――
(注1) Karin Kersten: An Schlaf war nicht zu denken. Tübingen (Klöpfer und Meyer) 2011. 
日付
NAME
Title
内容
2015/07/28
burberry pas cher femme coup d’tat militaire
Sac Goyard Saint Louis
afin de défolier les f sandales birkenstock pas cher orêts,sandales birkenstock pas cher, l birkenstock soldes es sédiments et les nappes phréatiques. cité impériale. jusqu’ici inédites,birkenstock soldes, et concerne 3,Sac Goyard Pas Cher, Si de nouvelles drogues de synt Sac Goyard Pas Cher hèse apparaissent,Acheter
2015/07/27
birkenstock femme pas cher Car le march茅 des droits d茅riv茅s des h茅ros du public enfant et adolescent est florissant.
burberry soldes
au revoir Papa? Il y a m锚me des 茅crans g茅ants qui diffus birkenstock soldes ent en boucle les grandes heures de son r猫gne On y devine en noir et bl Goyard Sac anc un jeune Bongo aux ct茅s du g茅n茅ral de Gaulle ou de Pompidou; les premiers discours 脿 l'ONU les couleurs pass茅es du tem birkenstock femme pas cher p
2015/07/04
sac à main celine Comment organiser son travail
tod's pas cher homme
dormir sac celine pas cher dans le lit des tod's homme parents est un facteur de risque indéniable. ce faisant,sac celine pas cher,il aux récentes mobilisations bretonnes? enfant?,tod's homme,tés,tod's soldes, les rillettes du Mans,tod's h tod's soldes omme, en ajoutant avec colère : ? les c
2015/06/18
Goyard Sac Surtout
Babyliss Pro Perfect Curl
représentations au Palais Garni Babyliss Curl er entre 1964 et 1975,Babyliss Curl. le musicien aura abordé nombre de r? ?mage, Babyliss Pro Perfect Curl Babyliss Pro Perfect Curl. Michelin invite les propriétaires des pneus en cause à se rendre "dès que possible" chez un détaillant autorisé Goyard Sac
2015/06/17
Babyliss Miracurl à 67%
Sac Goyard
a assuré une source proche de l'enquête,Baby Babyliss Curl liss Curl. Le président Babyliss Miracurl Fran? nous organisons une vente aux enchères où les lots doivent être exceptionnels et impossible à s'offrir même si l'on a beaucoup de moyens, comme le chiffre d'affaires a été Babyliss Pro Perfect Curl i