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「テレビでドイツ語」出演後記(T. Yoshimitsu)[J]

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理事のリレーエッセイ
  投稿日: 2011-10-12 14:52
吉満たか子(広島大学外国語教育研究センター)
2009年の8月、NHK教育テレビ(2011年6月から「Eテレ」に名称変更された)で放映されている「テレビでドイツ語」の講師を担当してほしいという依頼が舞い込んだ。テレビのドイツ語講座と言えば、ドイツ語を学び始めた大学1年の夏休みに見ていた記憶がある。当時はヨアヒム・ヴァイラントさんがネイティブスピーカーとして出演されていて、後に母校へ赴任して来られた時には、「テレビと同じだ~!」と無邪気に喜んだ。またラジオでは市川明先生が講師を担当されていて、先生の授業では「ラジオと同じ美声だ~!」とこれまた無邪気に喜んでいた記憶がよみがえった。これも何かのご縁とお引き受けし、2010年度と2011年度の監修と講師を担当した。
実際の仕事が始まったのは同じ年の12月であった。あまり何も考えずにお引き受けしたが、年が明ける頃にはこれまで番組で講師を担当された先生方に敬意を抱くと共に、「やっぱりテレビは見てるほうがいいなぁ」と少し後悔するようになった。

まずテキストの執筆が想像をはるかに超えて大変だった。番組は4月から9月までの半年間にわたり放映され、10月から3月までは前年に放映されたシリーズが再放送される。再放送の期間中に番組クルーがドイツでスキットや文化情報を撮影し、それをこちらで料理して誌面を埋めるという訳である。これまでにも教科書や参考書を執筆したことはあったが、今回の料理方法はこれまでとは全く勝手が違った。通常の教科書や参考書では文法項目の出し方や語彙、表現、そしてそれらが用いられる場面などを、対象となる学習者に合わせてこちらでコントロールできるが、番組テキストでは撮影されたスキットに出てくるものを否応なしに使うことになる。担当する年度から4言語コラボ企画「ユーロ24」が始まることになり、「短期滞在に役立つ24のフレーズ」をキャッチフレーズとした同じテーマ、同じフレーズが4つの言語(独・仏・伊・西)で週ごとに取り扱われることが決まっていた。番組は半年間で24回あるため、24のフレーズを学習するのだが、ロマンス系の3言語とドイツ語を同じ土俵に上げるにはやはり無理がある。例えば2010年度最終回のフレーズは"Vergesst mich nicht!"で、これを別れのシーンで使うと聞かされた。私自身そんなロマンチックなセリフを言う別れは経験したことがなかったし、誰かが言っているのを聞いたこともなかった。しかもこのフレーズはihrに対する否定の命令形であり、汎用性があまり感じられなかった。また他のフレーズでihrは登場しておらず、最終回にいきなりihrを出すのかどうか、Sieやduに対する命令形を取り扱うかどうかといった様々な問題が予想されたため、撮影前の打ち合わせではこのフレーズを避けてほしいとかなり抵抗したのだが、他の3言語でどうしても否定の命令形を導入したいとのことで、敵わなかった。

テキストの構成は、NHK出版と打ち合わせを行いあらかじめ決められていたが、毎月70ページ近い原稿を完成させねばならず、常に締め切りとの戦いであった。この戦いは収録が始まった頃からさらに激しくなった。収録の前にまず台本を監修しなければならない。もちろん担当プロデューサーが台本を作るのだが、共演者のセリフや自分が担当する文法説明、練習問題などすべてをチェックし、必要に応じて修正する。そして収録。収録は2週間に1回、授業を終えて広島から上京し、翌日渋谷のNHK放送センターで2本分を収録、収録後は次回の打ち合わせが夜の8時くらいまで続いた。ホテルに戻って荷造りをし、翌日の早朝にまた広島行きの飛行機に乗り、到着するなりまた授業というハードなスケジュールだった。1回の収録が終わってもまだまだ仕事は続く。テキストの校正、テキスト用イラストのチェック、ナレーションの原稿チェック、編集した番組の最終チェックなどなど。パソコンのメーラーを立ち上げると、ほぼ毎日のように仕事のメールが複数入っていた。

この2年間は、多分これまでの人生で一番忙しかったと思う。家人には「芸能人は大変だね」と揶揄され、同僚からは「ジェットセッター」というあだ名を頂戴したが、芸能人もジェットセッターも華やかに聞こえるが自分には全く向いていないと実感した。番組は台本に沿って区切りながら収録されるのだが、ほんの短いシーンでもセリフを覚えて言うことは想像以上に難しく、「噛んで」しまって収録を止めてしまうことも毎回あった。また、ケーキやワインを試食してコメントする場面ではどう表現してよいのか途方に暮れ、苦し紛れに訳のわからぬことを言ってしまったようにも思う。自分の不調法な姿をテレビで見ることは、今でも穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。おまけに仕事がようやく片付いた9月には2年連続して体のどこかが悲鳴を上げた。1年目は首が回らなくなり整形外科に駆け込み、2年目は眼球の毛細血管が切れて眼科に駆け込んだ。

愚痴めいた事ばかり書いてしまったが、この仕事を通して得られたことは苦労以上に大きかった。テレビ出演という非日常は面白かったし、テレビ番組の製作に携わることができたのは貴重な経験であった。番組の制作スタッフのほとんどはいわゆる「アラサー女子」で、若く有能な女性がてきぱきと仕事をこなす姿はいつ見ても気持ちが良く、彼女たちとの共同作業は本当に楽しかった。複数の人間がそれぞれの持てる力を出し合い、フォローし合い1つのものを作り出すということは大学ではなかなか経験できないプロセスである。
 
ドイツ語教育を生業とする者としては、これまでの経験や研究が大学の外で活かされたことは大変喜ばしかったし、大学での授業とは異なるアプローチを要求されたこともプラスになった。すでに述べたように、2010年度は短期滞在に役立つ24のフレーズを取り上げた。「フレーズありき」での進行のため、例えば冠詞類は、不定冠詞の4格→dieserの4格→定冠詞の1格→不定冠詞の1格→定冠詞の4格という、自分の授業では考えたこともないような順で登場した。名詞の性を覚える手段として、「名詞はder/die/dasとセットで覚えましょう」と常日頃言っており、それが使えないのには戸惑ったが、初めて名詞の性と冠詞類を学習する場合、der/die/dasであろうが、einen/eine/einであろうがいずれにせよ「名詞には3つの性があり、それらに応じて冠詞を使い分ける」という点に変わりはないのではないかと思うようになった。案の定、生徒役である女優の原沙知絵さんも、不定冠詞の4格が出てきた時には「そういうものだ」とそれほど抵抗なく理解されたようだったが、後にあらためて定冠詞の1格が登場した際に苦労されていたようだった。

2011年度は「ホームステイに役立つ24の動詞」と題して、毎回1つの動詞に焦点を当てた。動詞の選定には、以前筆者が日本と韓国の初学者向けのドイツ語教科書を比較調査した際に作成した共通語彙のリストから特に重要だと思われる動詞を選び、そこから番組のスキットの構成に合ったものが選ばれた。このシリーズでは4言語でそれぞれの扱う動詞も若干異なり、登場する順番も異なった。ドイツ語では選んだ24語に話法の助動詞も含まれていたため、厳密に言えば「24の動詞および話法の助動詞」なのだが、こちらも他の3言語ではすべて動詞扱いなので、「動詞」で統一された。キャッチフレーズなのでお許しいただきたい。番組では毎回なるだけ動詞(助動詞)の人称変化を提示するようにし、必要に応じてそれ以外の文法も、ナビゲーターとのやり取りの中で説明をした。この年の生徒役はフリーアナウンサーの内田恭子さんであったが、英語が堪能な彼女も、ドイツ語の人称変化や冠詞類の格変化には苦労されたようだった。
 
いずれのアプローチもドイツ語を体系的に教えることはできないが、1つのフレーズまたは動詞に焦点を当てそこからある特定の文法項目を導入することは、文法学習のハードルを(表向きだけではあるが)下げることにつながり、学習へのモティベーションの低下を防ぐことにつながるように思う。

「テレビでドイツ語」は週1回、25分という短い時間の中に、現地でのドイツ語会話、文法説明、ナビゲーターとネイティブスピーカーの会話練習、単語コーナー、ランデスクンデやドイツに関する話題の提供と多くのコーナーが盛り込まれている。そのため、ドイツ語そのものについて解説する時間はごくわずかであり、24回で1つのシーズンが終わるため、番組の中に盛り込める学習項目も限られた数であるが、プロが撮影する美しい現地の映像や魅力的なナビゲーターの出演は学習者のモティベーション維持に大きく貢献していると思う。番組の果たす役割はこれに尽きると言える。余談ではあるが、お隣の国、韓国でも教育番組専門の放送局があり、かつてはテレビのドイツ語講座が存在していたが、今では予算の都合で製作されていないと聞いた。毎週ドイツ語やドイツ語圏の文化に特化された番組が放映されることは、ドイツ語を教える者としてはたいへんありがたく、韓国のような事態になることは絶対に避けたいと思う。そのためにも、今後番組を担当される先生方には、ぜひがんばっていただきたいし、ドイツ語を教えておられる先生方には、視聴率とテキストの売り上げが少しでも伸びるよう、学生諸君に番組をおすすめしていただくようお願いする次第である。

最後に、番組をご視聴していただきましたみなさまと、番組出演を暖かく見守りサポートしてくれた広島大学外国語研究センターの同僚に、この場を借りて心より御礼申し上げます。

吉満たか子(広島大学外国語教育研究センター)
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