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「ミュンヘンの夏2011」:ミュンヘン大学・言語学サマーコースおよびワークショップの報告(S. Tanaka)[J]

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理事のリレーエッセイ
  投稿日: 2011-10-1 14:16
田中 愼 (千葉大学)
今年の8月,ミュンヘン大学にて,言語学サマーコースおよび日独言語研究立ち上げのためのワークショップが行われた。私個人だけでなく,参加者,関係者一同も,この試みを非常に肯定的に評価していることからも,この学会のHPの場を借りて,この試みを紹介したいと思う。
このサマーコースは,ミュンヘン大学のエリザベート・ライス教授からの提案により,ほぼ一年間をかけて計画され,実現したものであるが,直接のきっかけになったのは,日本独文学会主催の語学ゼミナールであった。ライス教授は,ちょうど10年前の2001年に語学ゼミナールの招待講師として来日されたのであるが,それがきっかけで共同研究が進められ,この夏に,サマーコースの開催の運びとなったのである。

本コラムでも,しばしば紹介されているが,語学ゼミナールは,日本には珍しく(?),かなり闊達な議論が展開される場である。招待講師の講演はもとより,参加者の講演(講演希望は多くいつもキャパシティ以上の発表申し込みがあり,実行委員などは,発表を「遠慮」している状況にある)においても,忌憚なき意見交換が行われ,招待講師にも非常に好評を博している。私は,2007年から2010年の間,4年間にわたって実行委員会の代表をつとめたが,つねに招待講師の先生方から,継続的な共同研究を求められる(この中から,個人ベースで,共同研究が実現し,多くの成果を挙げているのは喜ばしいことである)。一方,日本の参加者の間でも,「語学ゼミをドイツでやりたいね」などのような声が上がり,半分冗談ながらも,その実現を模索したことも一度ならずあった(たいていは,「夜の部」に盛り上がる話題である)。

そんな中,ライス教授から,「語学ゼミのようなもの を日本とドイツの若手研究者を中心にできないか」ということを相談され,枠組みとしてミュンヘン大学のサマーコースを提案された。実現については,半信半疑であったが,私の前の語学ゼミ実行委員長であった,広島大学の吉田光演さん,東京大学の森芳樹さんの大きな後押しもあり,この8月の開催にこぎつけたのである。

開催までには,難題もあった。「果たして,ドイツでやる『日独語対照の言語学のコース』に人があつまるのであろうか?」と考えるのは,私だけではないはずだ。「英語でやれば人も集まりやすいのでは?」という私の弱気な提案に(ミュンヘン大学のサマーコースは,ドイツ語学習のコース以外はほとんど英語で催される),ドイツからはアブラハム教授,日本からは,吉田,森の両氏からダメを出された(結局ドイツ語での開催となった)。震災の影響も懸念された。震災の直前の3月初旬に吉田さんと私がミュンヘンに赴き,サマーコースとワークショップの詰めを行ったのであるが,帰国直後,未曾有の惨事に巻き込まれた。そのなか,ドイツからは,我々の安否を心配する声が寄せられ,励ましの言葉をかけてもらったが,「サマーコースの中止」という話題は挙がらなかった。我々の意志を信じていただいたのだと思うが,同時期に行われていたセンセーショナル な一部ドイツのマスコミ報道を考えると気が気ではなかっただろう。



サマーコースは,日本からの参加者10名,ドイツからは7名の参加者が集まり,講師として日独双方から8名が参加し,行われた。テーマは,「統語構造,モダリティ,直示:節の左周辺部の構造と機能」という,統語論,意味論,機能言語学の立場から,文の構造にアプローチするというものであった。二週間の会期中 ,日替わりで統語論,意味論,機能論の3つのテーマについての講義がそれぞれ二回ずつ行われた。これらの講義では,それぞれ生成文法,形式意味論,機能語用論という独立した分野での研究が紹介されたが,「構造」を扱う形式主義的な言語学と「機能」を扱う機能主義的言語学が互いに排除するものとしてではなく,有機的な連関を持ったものとして提示された。日本からは,吉田さん統語論を,森 さんが意味論とその統語論とのインターフェースの部分を講義し,田中が直示(ダイクシス)を中心とした機能論の立場での話をした。ドイツ側では,ライス教授が,直示と文法の問題,モダリティの問題を,アブラハム教授,ハイダー教授(ザルツブルク大学)は,生成文法における文構造の問題を,ハイコ・ナロック准教授(東北大学)は,日本語のモダリティの概論を扱った。その他,ミュンヘン大学のペーター・ぺルトナー教授が,日本近代文学における時制の問題を論じた。

サマーコースでは,参加者が各自の研究を報告する講演も行われた。東京外大の高橋美穂さん,信國萌さん,広島大の野間砂理さんは,ドイツ側の発表(ウィーン大のヴェルナーさん,ミュンヘン大の海田さん)に臆することなくしっかりした研究発表を行った。

サマーコースに引き続いて,三日間の日程で,日独双方の研究者があらたに加わり,ワークショップが行われた。これは,サマーコースで「お互いの言語について学ぶ」だけでなく,さらに突っ込んだ議論をすること,また,今回の試みを単発のもので終わらせるのではなく,継続的な共同研究を本格的に立ち上げることを目的にしたものである。ここには,サマーコースの参加者に加えて,日本から関西学院大の小川暁夫氏,東京外大の藤縄康弘氏,広島大の稲葉治朗氏,シュトゥットガルト大のフォン・ホイズィンガー教授が加わった。このワークショップはまさに「ドイツで語学ゼミを」という目的が実現したようで,非常に活発な議論が行われ,発表外でも遅くまで語り合う貴重な時間を持つことができた。

このワークショップでも,サマーコースにも参加した若手の研究者として,東京大の高祐輔さん,西脇麻衣子さんが,自らのテーマについて,堂々たる発表を行った。

今回のサマーコース,ワークショップは,「語学ゼミをドイツで」がある意味で合言葉になり(ライス教授もその精神を支持してくださった),望外の大きな成果を挙げることができたと思う。一方で,語学ゼミを本当にドイツでやるのは,語学ゼミが学会の公式行事である以上広く学会員が参加しやすい形式でやる必要であるので,現実的とは言えないだろう。その意味で,今回のケースは,「学会の活動の一つの発展の可能性」と捉えていただけたらありがたい。もちろん,今回のサマーコースも学会のHPで案内を出すなど,広く参加を呼び掛け,門戸を開いたつもりである。また,今後もこうした試みを発展させて行きたいと考えているが,ご興味のある方は,ぜひ積極的に参加していただけたらと思う。ゲルマニスティックの研究,後進の育成を単独の一大学で行うことができた時代は,もう過去のものになってしまったように思われる。このような状況において,独文学会の果たす役割は大きいものであると考える。学会は,個々の力が集まる場所でもあり,またその集まった力が発展していく母体となるべきものだと思われる。今回は,たまたま,(どちらかと言うと)理論系の言語学において,試みられた企画であったが,このようなものが,いろいろな分野で企画され,いろいろな発展を遂げることがあれば,素晴らしいことだと思う。

最後になるが,ミュンヘン大学のライス教授,アブラハム教授には,心から感謝したい。また,この企画の実現のためにお力とお知恵を貸して下さった(今回都合が合わずに直接の参加は得られなかったが,多くの方々の支援をいただいた)すべての人にお礼を申し上げたい。

田中 愼 (千葉大学)
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