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ドイツ「基本法」(Grundgesetz)における民主主義擁護のための闘争的性格(H. Yanagihara)[J]

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文化コラム
  投稿日: 2009-11-4 20:36
柳原初樹(甲南大学)
1949年5月にドイツ基本法が施行されて、今年は60周年になる。現代ドイツにおける議会制民主主義や法治国家制度については改めて言を要さないであろうが、現代ドイツの政治文化を表現する言葉として、「憲法愛国主義」(Verfassungspatriotismus)と「市民的勇気」(Zivilcourage)が定着している。ドイツで憲法にあたる「基本法」に示された民主性の特徴は、その民主主義擁護のための闘争的性格にあろう。基本法は、79条で、連邦議会並びに参議院で三分の二の賛成によって改正が可能であるとしており、戦後50回以上の改正がなされてきたが、「連邦制原理」、「民主主義原理」、「社会的国家原理」、「国民主権」、「国家権力の分立」、「各権力の法への拘束」、「共和国原理」、「自由民主主義的基盤」、「人権の不可侵」は改正が許されないと明言している。例えば、21条2項や第9条2項、第18条等は「自由で民主的な基本秩序の擁護」についての規定である。
第9条 [結社の自由]
(1) すべてのドイツ人は、団体および組合を結成する権利を有する。
(2) 目的または活動において刑法に違反している結社、または憲法的秩序もしくは国際協調の思想に反する結社は、禁止される。
(後略)
第21条 [政党]
(1) 政党は、国民の政治的意思形成に協力する。その設立は自由である。政党の内部秩序は、民主主義の諸原則に適合していなければならない。(後略)
(2) 政党で、その目的または党員の行動が自由で民主的な基本秩序を侵害もしくは除去し、または、ドイツ連邦共和国の存立を危くすることを目指すものは、違憲である。違憲の問題については、連邦憲法裁判所が決定する。(下線筆者)

擁護されるべき「自由で民主的な基本秩序の」への表明が、ナチス体制への深い反省と再来防止を目的としていることは明白である。そのことは、基本法の前文でも強調されている。「神と人類に対する責任を意識して・・・Im Bewusstsein seiner Verantwortung vor Gott und den Menschen, [... ]」とドイツ基本法は始まるが、ここには、戦後の基本法が「実定法」を越える、「自然法」的正義を志向する性格が見て取れる。

人間は何をしでかすかわからない、「神」への言及にその決意が表明されている。ワイマール憲法の前文との比較によってもその証左は得られる。

そうした理念への賛同を政治哲学者のドルフ・シュテルンベルガー(1907-1989)は、「憲法愛国主義」と表現し、ヴァイツゼッカーやハーバーマスにも引き継がれていったのだが、この愛国主義は、ナチスの時代の「民族」や「故郷」、「血と土地」へのエスニックな愛国主義を超えて、連邦共和国の政治的アィデンティティーを、理性的に「自由で民主的な基本秩序」に基づく国家公民的制度として理解するために、「愛国主義」という表現に、「憲法」という語を付したのである。そして、こうした秩序を守るための戦闘的性格を具現しているのは、18条「基本権の喪失」と20条「国家秩序の基礎、抵抗権」である。「市民的勇気」の憲法的基盤とも言える。

第18条 [基本権の喪失]
意見表明の自由、とくに出版の自由(第5条1項)、教授の自由(第5条3項)、集会の自由(第8条)、結社の自由(第9条)、信書、郵便および電気通信の秘密(第10条)、所有権(第14条)または庇護権(第16a条)を、自由で民主的な基本秩序を攻撃するために濫用する者は、これらの基本権を喪失する。喪失とその程度は、連邦憲法裁判所によって宣告される。

第20条 [国家秩序の基礎、抵抗権]
(1) ドイツ連邦共和国は、民主的かつ社会的連邦国家である。
(2) 省略
(3) 省略
(4) すべてのドイツ人は、この秩序を除去しようと企てる何人に対しても、他の救済手段が存在しないときは、抵抗権を有する。

他の救済手段が存在しないときには、抵抗権を認めるということは、法解釈上、「独裁者」を武力により排除し、専制の阻止も、正当防衛として認められる可能性をも残している。しかし、実際には、刑法86条、86a条、130条があり、これらがネオナチや外国人排斥を主張する右翼団体や「民衆扇動」を取り締まる強力な存在となっている。公衆の面前で、ナチスの歌を歌うことや、ナチスのシンボルを示威することは、憲法的には18条、20条に違反し、具体的には上記の刑法に抵触する。ここで、ひとつの具体例を示そう。ナチスの幹部であったルドルフ・ヘスは、ニュールンベルク裁判で終身刑の判決を受け、40年以上にわたって、ベルリンのシュパンダウ刑務所に収監されていたが、1987年8月17日に死亡した。ヘスは、バイエルン州オーバーフランケンのヴンジーデルに埋葬された。ドイツのネオナチグループは、「ヘス追悼デモ」を計画した。ヴンジーデルに集結し、へスの死亡した日に「ヘス追悼デモ」を警察当局に申請した。翌年ネオナチのデモは禁止されたが、ネオナチの弁護士によって、裁判所に提訴され、係争中に120名のネオナチがヴンジーデルに集結した。1989年にはドイツだけでなく近隣諸国のネオナチも参加したが、その後、このネオナチのデモはドイツ全土に波紋を投げかけ、これに対抗、阻止する目的でドイツの反ファシズム団体や、ヴンジーデルの市民団体も示威行動を取った。

統一後に多発したネオナチの示威行動やベルリンのホロコースト記念碑の建設反対運動に関連して、ドイツ議会は2005年、刑法130条(民衆扇動罪)の改正を行い、以下の項を追加した。

(4)以下の者は三年未満の自由刑若しくは罰金に処せられる。
公然とあるいは集会において、ナチスの暴力・恣意的支配を承認したり、賞賛したり、正当化することによって、その犠牲者の尊厳を傷つけるような形で公共の平和を乱す者

従って、2005年の刑法改正後の、「ヘス追悼デモ」に関する司法判断は、「ナチス支配の承認」の違法性を争点とするものとなった。2006年8月のバイエルン行政裁判所の判決は、「表面上はヘスの追悼を装っているが、実際はナチスの暴力・恣意的支配を承認する」ものであり、その「犠牲者の尊厳を傷つける」意図が認められる故に、「違法」であるというものであった。

その他、「ホロコーストの否認」に関しても、刑法140条(犯罪行為の是認)189条(死者の尊厳の誹謗)などの刑法が適用される。ホロコーストの否認に関しては、フランス、オーストリア、スイス、ポーランドなどヨーロッパ10カ国でこれを取り締まる法律が制定されている。

しかしながら、ホロコースト否定やナチス賞賛の法的取締りに関しては、「言論の自由」と「表現の自由」という視点からの反論も存在する。また、「共産主義者の犯罪」の否定は罰せられないのかとの反論も存在していることを最後に付言しておく。

柳原初樹(甲南大学)
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