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狂言 オペラに出会う(M. Komiya)[J]

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音楽批評
  投稿日: 2009-9-3 22:52
小宮正安(横浜国立大学)
「狂言風オペラ」なるプロジェクトで脚本を書くようになって、数年経つ。モーツァルトのオペラをベースに、2006年には『フィガロの結婚』、この秋には『魔笛』が初演された。読んで字のごとく、狂言とオペラを合体させたものだけれど、もう少し説明がいるだろう。
雑駁に言えば、オペラのストーリーを狂言師が台詞や舞で表現し、音楽は管楽八重奏+コントラバスが演奏するというもの。演奏にあたっては、この編成のためにアレンジされた「ハルモニー・ムジーク」の楽譜が使われる。ハルモニー・ムジークとは18世紀に流行した編曲物の一ジャンルで、小編成の管楽アンサンブルを用い、人気オペラやオラトリオの名場面を何時でも何処でも楽しめるよう考案された。モーツァルトのオペラをはじめ、ハイドンのオラトリオなど、かつては広範囲のレパートリーを誇っていたらしい。

だが19世紀に入ると、ハルモニー・ムジークは廃れてゆく。元々このジャンルは宮廷のサロンでの演奏会を念頭に生まれたものゆえ、当の宮廷文化が衰えるにつれて、その影響をまともに被った恰好だ。しかも「芸術」観念が台頭することにより、作曲家が苦悩して書き上げた作品をお手軽な編曲版で楽しもうとは何事か、という原理主義的な考えが幅を利かせるようになる。かくしてハルモニー・ムジークは、19世紀後半から20世紀前半にかけて、忘却の彼方へと葬り去られてしまった。

状況が変化を遂げたのは、20世紀後半になってからのこと。19世紀的な価値観から離れることによって、いわゆるクラシック音楽に再検討のメスを入れようという動きが起こる中、ハルモニー・ムジークの見直しが始まった。楽譜の再発見がおこなわれたり、ハルモニー・ムジーク用の編曲版が新たに作られたり、さらにはそれらを演奏したり録音したりする音楽家が現われた。そのような団体の一つこそ、今や狂言オペラに欠かすことのできないパートナー、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンの管楽器奏者たちである。

ドイツ・カンマーフィルは数年前来日し、ベートーヴェンの交響曲全曲演奏会で目の醒めるような音楽を聴かせてくれたことで、覚えておいでの方もいらっしゃるだろう。もともとは音楽学生の選抜オーケストラに所属していたメンバーが、自分たちの手でプロの楽団を作ろうということで誕生したのがこの団体だとか。そのため、創立以来の年数こそ少ないが、かえって自分たちの手で新たな試みに挑戦してゆこうという気概が強く、それが斬新かつ鮮烈な演奏ぶりへと結びついているにちがいない。今やドイツ国内での演奏はおろか、ザルツブルク音楽祭をはじめとする数多の音楽祭にも引っ張りだこの状態だ。

そんなオーケストラにあって、とりわけ独奏部分を多く受け持っている管楽器奏者である。月並みな言い方だけれど、上手くないわけがない。音の美しい立ち上がり、柔らかな響き・・・、どこをとっても唸らされる。じっさい、彼らの演奏を聴いた日本の某有名管楽器演奏家が、ぽつりと言っていた。「ブラスバンドで優勝を目指すあまり遮二無二な演奏だけを心がけ、時間ができればグルメかお笑いしかないテレビを見てプロになった奴らとは、持っている余裕からして違うんだよね。」

この余裕を目の当たりにさせられたのが、『フィガロの結婚』初演のための稽古の時。悪戯心を起こし、脚本には「管楽器奏者は楽器を演奏しながら舞台に登場する」などとテキトーに書いてはみたものの、お堅いイメージのクラシックの演奏家がそんなことをしてくれるのかいなと、脚本家本人からして半信半疑だった。まあ子供のための鑑賞教室だったら分からなくもないけれど、そうすると演奏に手抜きが起こる場合が殆どだし・・・。

だがそれは、まったくの杞憂に終わった。演奏はいつもながらの高い質を保ったまま、彼らは脚本通りに楽器を吹きながら、嬉々として登場してくれた。しかも狂言師の稽古を見ていたせいか、誰も教えていないにもかかわらず、歩く際にはきちんと摺足までやってくれたのには驚いた。なお狂言オペラには、響きに和のテイストを入れようということで鼓奏者にもお出ましを願ったのだが、管楽アンサンブルと鼓がこれまたよく溶け合って、何とも面白い音世界を作り出してくれたのである。

普通「コラボレーション」というと、異なるものを異なるままに舞台上に並べてはハイお仕舞い、という場合が多い。だがドイツ・カンマーフィルのメンバーを含む出演者のお陰で、異なる舞台芸術が互いに溶け合い新たな舞台が作り上げられてゆく様を体感できたのは、思いがけない収穫だった。2011年にはドイツでの公演も計画されているので、今度はかの地での観客の反応が楽しみである。何せオペラを含むクラシックの公演では笑ってはいけないような雰囲気のある日本でも、客席からたくさんの笑いを頂戴することができたのだが、今度は言葉の壁を超えて一体どのような結果が飛び出しますやら。乞うご期待!
 
日本での公演日程は、2009年10月7日に京都(京都府立文化芸術会館)、10月8日に大阪(いずみホール)、10月9日に福井(ハーモニーホールふくい)、10月10日に岐阜(岐阜県サマランカホール)、10月14日に東京(東京オペラシティ)の予定である。

小宮正安(横浜国立大学)
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