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ラジオドイツ語講座入門編を聞いてくださった方々へ(T.Seino)[J]

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ゴールデン・リレーエッセイ
  投稿日: 2007-9-28 18:57
清野智昭(千葉大学)
4月から9月末までNHKラジオドイツ語講座入門編 <謎の女 Die geheimnisvolle Frau> を担当しました。このエッセイでは,その講座を聴いてくださったリスナーの皆さんへの感謝の気持ちを伝えるとともに,私がこの経験を通じて考え感じたことを書こうと思います。
幸いにも講座の放送中,そして,特に終了時に多くの方から温かいお言葉をいただきました。番組に宛ててお手紙をいただいた方々だけでなく,インターネットの例の巨大掲示版にもメッセージを書いてくださった方々がいます。私は,それに感激して,不用意にも,その掲示板に本名で書き込んだのですが,それに対して,「本人と特定できる信頼できる媒体で発表した方がいい」と忠告してくださる方がおり,ちょうどこのエッセイに寄稿するように頼まれていたこともあり,この場をお借りすることにしました。(なお,上のご忠告は誠にありがたいもので,その掲示板に「これ以上私は書き込みません」という2回目の投稿をした後にも,私の名を騙る書き込みがあります。ドイツ語の掲示板にはそのような方はいらっしゃらないと思っていたので,ショックを受けるとともに,ネットという匿名の世界の怖さを体験しています。)
さて,皆さん,改めて,温かいお言葉をありがとうございました。今までの苦労が報われた気持ちで一杯です。

今回の講座では,何かこれまでと違ったことをしようと思い,スキットをサスペンス調にしました。それは私自身が外国語を勉強するときに,「これからどうなっていくのだろう?」と話の続きが知りたくなるような教材が好きだからです。英語ではそのような教材は色々ありますが,ドイツ語では私の知る限りありませんでした(同業者の方々,もしあったならごめんなさい)。それで無謀にも自分で作ろうと思ったのです。
しかし,やってみてすぐにものすごく大変だということがわかりました。というのも,入門編ですから,当然,最初に,文法事項をステップ毎に設定し,それに従って,スキットを作っていくわけです。もちろん語彙も限られています。しかも,毎月の終わりに,ちょうど「続きはまた来月!」という山場が来るようにしなければなりません。
というわけで,苦しみながら作ったスキットでした。ちなみに,文法事項を決め,それからスキットを作りながらキーフレーズを決めていくわけですが,「ステップ99 愛情の表現 Ich liebe dich.」だけは,最初に書きました。そのステップの放送の中でそのことを言ったので,覚えていらっしゃる方がいるでしょう。スタッフの方に聞くと,„Ich liebe dich.“ をキーフレーズにしたのはこれまで記憶がない,ということなのでした。だいたい,「私は昔ドイツ語勉強しましたよ」とおっしゃる方は,「でも覚えているのは Ich liebe dich.だけです。」と続けるので,ならばいっそ,そのフレーズを最後に持ってこようと考えたのです。
まぁ,„Ich liebe dich.“ は,習った人が将来実際に使う場面もあるでしょうが,スキットをサスペンスにするとどうしても,実際に使う場面は決してないだろうというキーフレーズが多くなってしまうのが問題と言えば問題です。たしかに,未来形のステップでは,„Lassen Sie die Finger vom Projekt.“ 「そのプロジェクトから手を引きなさい。」の文に続いて,„Sonst werden Sie möglicherweise sterben.“ 「さもないとあなたは死ぬかもしれないわよ。」という文をキーフレーズにしたので,「こんな文をいつ言うのですか」や「気味が悪い文をキーフレーズにしないでほしい」というご批判を受けました。私がこういう文でもかまわず,むしろ,好んでキーフレーズにしたのは,一つは,私の前の講座の多くで,実際に使う場面が多いフレーズを覚えさせており,それらの講座はどれもすばらしいので(この業界で生き残るためのおべっかです),私ぐらいは変わったことをしようと思ったのと,もう一つは,文法事項の定着のためには,実際には使う場面はないかもしれないが,インパクトの強いフレーズの方がかえっていいのではないか,と思ったからです。これについては,どちらがいいか,未だによくわかりませんが,評価してくれる学習者もいらっしゃったのは事実です。

さて,ネットなどで見ると,かなり多くの方が,この講座および他の英語以外の講座が,来年度,再放送されるのだろうかと,色々心配してくださっていることがわかりました。中には,根拠のない憶測があたかも既定事実のように書かれています。そこで,それについて,私が知っていること,書けるだけのことを書いておきます。
まず,放送時間について,現在の20分が15分になるかどうかはNHK内部で議論をしている最中だそうで,少なくとも現時点では結論は出ていないそうです。プレス発表は来年の1月に予定されていますから,それまでには結論が出るのでしょう。ただ,この<謎の女>の講座に限っては,来年,たとえ放送時間が一回15分になっても再放送できるように進めています。編集はものすごく大変で,おそらく,追加で収録する部分もあり,単なる「再放送」ではなくなると思いますが,とにかく,なんらかの形でお届けできるように考えてもらっています。ただ,来年のことですから,確実なことは私にはいえません。また,15分に編集し直して再放送するというのは,大変なことには違いないので,この講座がどれだけリスナーの支持を受けているかにかかっている部分も大きいと思われます。
スタッフの方に聞いたところによると,テレビでは「視聴率」はすぐに分かるのに対し,ラジオの「聴取率」というものは全く測るすべがないそうです。このことはこの仕事をさせていただいてはじめて知りました。ラジオ講座の場合は,「テキストの売り上げ」と「リスナーからNHKに寄せられるお手紙」しか判断材料がありません。ですから,励ましであれご批判であれ,とにかく,お便りをいただけるのが,どのラジオ講座にとっても非常に大きな要素になっているようです。

私はNHKの編成の決定の仕組みは全く知りませんし,また,知っていることでも「守秘義務」を一応課せられているので,あまり立ち入ったことは書けませんが,ごく一般的に言って,ラジオ講座の意義が再検討されているのは申し上げられると思います。つまり,NHKにとっては「ラジオ講座で勉強している方がどのぐらいいるのだろうか」,「どのくらい世の中に役に立っているのだろうか」が常に問題となるわけですが,上で申し上げたように,それは間接的にしか知ることが出来ないわけです。大げさに言えば,「公共放送としてラジオ講座を放送する意義」を常にNHKとしては考えなければいけないのでしょう。私たちのドイツ語講座に関して言えば,その存在意義を問われるのはある程度仕方がないといえます。いやむしろ,現在の日本でドイツ語講座を制作,放送する意義を考える方が公共放送としてあるべき姿だと私自身は思っています。
このことに関して,松浦前会長がNHKとの協議について2回にわたってこのホームページに報告されているので,是非,その文書も読んでいただきたいと思います。

私個人の考えは放送でも申し上げましたとおり,これからの日本は英語の他に最低もう一つの外国語が話せる人間を多く養成するべきだという「複数言語主義」です。おそらく,この日本独文学会の構成員の大多数はそうだと思います。ですから,最低,今あるラジオ講座の言語はすべてそのままの規模を維持してほしいと思っています。また,中国語や韓国語など現在の日本にとって必要度が増していると思われる言語の学習者が増え,また,放送枠が拡大されるのも実に結構なことだと思っています。ネットなどでは,ドイツ語を愛するためか,必要以上に,他の言語を攻撃するような書き込みが散見されることに対し,私は胸を痛めております。
しかしながら一方,ドイツ語を学習する意義が無くなっているとは私は決して思っていません。もちろん,私はこの言語を心から愛しているので,私が何を言っても客観的な言説にはならないのですが,これまで日本がドイツから学んだことを今一度咀嚼し,また,現在,ドイツが行っていることを学ぶことは非常に大切であり,そのためにはドイツ語の知識が絶対に必要だと思います。

もし皆さんがドイツ語を大切に思ってくださるなら,それをどんな小さな形であれ,示してくださると,最終的には大きな力になると思います。そして,何より,「ドイツ語を勉強するのは楽しい」と多くの方が思ってくださるのが何より大切なことです。私は微力ながら,少しでも楽しんでいただけるよう,頑張ってみました。至らない点も多かったと思いますが,私なりの工夫がみなさんのドイツ語学習にお役にたったなら,とても嬉しく思います。

さて,この私のエッセイがきっかけで初めてこの日本独文学会のホームページをご覧になってくださった方がいらしたら,是非,色々と覗いてみてください。私たちはあくまでもドイツ語学・文学・文化等を研究する学術団体ですが,一般の方に私たちの活動を知っていただき,ともにドイツ語やドイツ(語圏)文化に関わっていっていただきたいと思っています。そのために,このホームページも最近新しくし,様々な情報をすぐにお届けする態勢にしました。ここを足がかりに,ドイツ語の世界に入っていってくださると嬉しいです。

ラジオ講座の仕事は想像を遙かに超える激務でしたが,大げさに言うと,ドイツ語を教えて初めて本当に感謝してくださる方々に出会えました。よく,「先生の講義を受けられる千葉大の学生さんがうらやましい」と書いてくださる方がいますが,本当に,うちの学生にそれをおっしゃっていただきたいものです。最近は,なんとなく学生は「ドイツ語を勉強してやっているんだぞ」という態度で,こちらも卑屈に「今の時代,ドイツ語を勉強してくれてありがとう」と接してしまうのです。それはともかく,収録が終わった直後は「もう二度とやらない」と思っていましたが,今では,(再放送は別として),もし,またお声がかかったら,またのこのこと引き受けてしまうかもしれません。そのときは,完璧な(ドロドロともいう)ラブ・ストーリーにしようかなぁ,と,密かに思っています。では,また,そのうちに。

清野智昭(千葉大学)
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