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「ドイツ映画祭2006」(M.Iida)[J]

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映画批評
  投稿日: 2006-7-15 14:38
飯田道子(立教大学)
この週末から5日間にわたって(7月16日-20日)ドイツ映画祭が開催される。場所は昨年と同じ有楽町朝日ホール。今回は昨年から今年にかけてドイツで公開された最新作をそろえている。今回プレミア上映される作品を中心に見どころをご紹介したいと思う。
今秋日本での公開が決まっているのは、オスカー・レーラー(Osker Roehler)監督の『素粒子』(Elementarteilchen 2006)だ。ミシェル・ウエルベックの同名の小説の映画化で、話題の問題作である。レーラー作品は昨年の「ドイツ映画祭2005」でも『アグネスとその兄弟』が上映されて興味深く見たのだが、今回も心に深い傷を負った異母兄弟・ブルーノとミヒャエルの人生の一コマを描きながら、母親との世代間の葛藤や報われぬ男女間の愛といった、現代社会に生きる我々が抱えている問題を浮き彫りにしている。強い性的欲求不満を抱えながらうまく女性との関係を築けないブルーノは、ついに見つけた恋人が不自由な体になった時に救いの手をさしのべられない。一緒にいたいと渇望しながらも、自己を犠牲にできないエゴイスティックな一面は、きれい事ではすまない人間の持つ一面をさらけ出している。一方、天才的生物学者の弟ミヒャエルは、恋愛には極めて淡泊で、性交渉なしの生殖を研究しているが、心に抱き続けた幼なじみの初恋の相手アナベル(演じているのは、『ラン・ローラ・ラン』主演のフランカ・ポテンテ)と再会して、ごく自然な成り行きで関係を持つ。ブルーノが女性を求めてさまよう姿は痛々しい限りで、作品が扱っているテーマも重苦しいのだが、それでも不思議と透明感がある。主役のブルーノを演じたモーリッツ・ブライプトロイは、この作品で今年のベルリン国際映画祭の主演男優賞に輝いた。レーラーは、前作の『アグネス』とはひと味ちがった一面を見せていて、今後がますます期待される映像作家だ。今回は来日予定ということなので、面白い話が聞けるのではないだろうか。最終日20日の、最後をしめくくる作品として上映される。

もうひとつのプレミア作品は、グレゴール・シュニッツラー監督の『黒い雲』(Die Wolke 2006) だ。チェルノブイリ原発事故の翌年に発表された小説『見えない雲』を、事故から20年目に当たる今年、舞台を現代に移し変えての映画化である。フルダ近郊の小さな町で暮らすハンナは、いつかこの町を出ていきたいと夢見る16歳だ。内気だが秀才の転校生エルマーから気持ちを告白されたその瞬間に、原発事故が起き、放射能が漏れ出す。母は仕事で出張に出ている。幼い弟ウリーを託されているハンナは、ウリーの待つ家へと急ぐ。町は迫り来る放射能の雲を避けて逃げ出そうとする人々でパニック状態だ。エルマーの来るのを待っていられないハンナは、ウリーと自転車で駅へ向かうが、不幸にも幼い弟は途中、交通事故で命を落とす。放心状態のまま、通りかかった車に拾われて何とか駅までたどりついたハンナだが、結局列車には乗り込めず、呆然としたまま放射能に汚染された雨に体をさらしてしまう・・・。

次第に病気にむしばまれていくハンナと、そんな彼女を捜し当てて寄り添うエルマーとの、(少々不自然さはあるが)純粋な愛。この映画の重苦しさは、ヒーロー不在の重苦しさで、明快な解決はあろうはずもない。これは現在では、どこにでも起こりうる事件を描いた映画なのだ。解決は、ハンナとエルマーの場合がそうであったように、心の中にしかあり得ないのだろうか。ものすごくリアルだが、目をそむけてはいけない作品なのだろう(特に幼い弟が死ぬ場面は正視できない)。ハンナを体当たりで演じたパウラ・カレンベルクが来日する予定だ。この作品も最終日に上映される。今冬日本公開予定。

その他の話題作としては、ヘルミーネ・フントゲブルト監督の『マサイの恋人』(Die weisse Massai 2005)がある。ドイツ人女性が恋人とケニアを旅行中にマサイの戦士と知り合い、恋人を捨てて現地にとどまり、子どもをもうけるという、現実離れしていそうだが、コリンヌ・ホーフマンのベストセラー自伝小説の映画化だそうだ。フントゲブルト監督は、前作もドイツで大当たりをしている女流監督で、主演のマサイを演じた俳優を伴って来日予定だ。今回の映画祭では女性監督の作品が多いのが注目される。アンジェリーナ・マッカローネの『異国の肌』(Fremde Haut 2005)は、イラン女性を主人公とした同性愛を扱った問題作。ドミニク・デリュデレの『血の結婚式』(Die Bluthochzeit 2005)は、コミックを原作にしたブラック・コメディ。「大御所」としてはドリス・デリエの、日本で撮影された『漁師と妻』(Der Fischer und seine Frau 2005)がある。同じく「大御所」といえば、「ニュー・ジャーマン・シネマ」の巨匠、ヴェルナー・へルツォークの『ワイルド・ブルー・ヨンダー』(The Wild Blue Yonder 2005) は、人類がいなくなった地球を舞台に繰りひろげられるSF ファンタジー。他にも、『ノッキン・オン・ヘブンズドア』で日本でも人気の出た俳優ティル・シュヴァイガー監督・主演の『裸足の女』(Barfuss 2005)などなど、盛りだくさんだ。

もうひとつの大きな見どころは、エルンスト・ルビッチの初期のサイレント作品がピアノ伴奏つきで上映されることだ。『陽気な監獄』(Das fidele Gefangnis 1917)、『牡蠣の王女』(Die Austernprinzessin 1919) 、『男だったら』(Ich möchte kein Mann sein 1920) 、『山猫リシュカ』(Die Bergkatze 1921)など、映画史の中でしかお目にかかれなかったような作品が4本も上映される。贅沢な映画祭である。

(詳しくは、「ドイツ映画祭2006」の公式ホームページ http://www.asahi.com/event/de06/ を参照していただきたい。)

飯田道子(立教大学)
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