ドイツ語教員としてブログで発信すること (T. Kumagai) [J]   作成日:2020/05/22
 今回のコラムでは、これまでにブログを書きながら感じたことや、ブログによって発信することの意味について考えたことを述べたい。私は大学院生の頃からブログやSNSに投稿を始め、2016年から《はてなブログ》にて「ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々http://schlossbaerental.hatenablog.com」を書き続けている。数あるブログサービスの中から《はてな》を選んだのは、著名な研究者や出版関係者などが使用しており、また《Twitter》や《Facebook》、《はてなブックマーク》などほかのSNSと連動させている人が多くいたからである。


 ブログを開設してから4年になるが、だいたい月に4回ほど更新し、年間50〜60本ほどの記事を書いている。記事の内容は、大学での出来事やドイツ語や講義科目の授業方法、自分の研究や学会についてなど、大学や研究に関わることだけでなく、家族のこと(父や祖母の葬儀について)や、趣味の日曜大工、カメラ(とりわけ《Brunnen》の撮影)、マラソン大会への参加、そしてドイツ・オーストリアへの旅行記と、ほとんどなんでもありである。


 私がブログを書き始めたきっかけは、論文を書くために、日常的に何かしら日本語の文章を書き続ける習慣があったほうがいいと考えたからだった。日記のように文章を書いて、それを誰かに読んでもらう。論文の種になるような洞察をどこかにメモしておいて、それをまとめれば、手軽に論文が書けるはずだと当時は思っていた。しかし、これまで書いてきた自分のブログを読み返してみるとわかるが、ほとんど研究の役に立ちそうなことは書いていない。学会に参加した、図書館で資料を集めた、ドイツ語の新しい授業方法を実践してみたといったことはよくブログに書くが、高度な集中力を要するような、研究についての話題は、ブログという気軽なメディアには書きにくい。


 ここ最近は、もはや論文を書くための訓練としてブログを書いているという意識はない。日々の生活で気になったことや考えたことをまとめて書いて、あとで読み返しておもしろければいいだろうと思っている。ブログを書いていると、どれくらいの人が記事を読んでくれたのかも気になるものである。私のブログは不定期更新であるし、たいして重要なことは書いていないので、だいたいPV(ページビュー)数は一日に400程度である。しかし、これまでに数回、一気に数千人、数万人が私のページを訪問する(バズる)こともあった。


 2018年の夏にミュンヘンに滞在しているとき、ある晩ワインを飲みながらテレビを見ていた。腕利きのタトゥー職人数名が、タトゥーを修正したいという一般人の身の上話を聞き、腕によりをかけて手直しをするという番組だ。日本ではありえない題材を扱っているのがおもしろくて写真も載せてブログに書いたところ、数日後にネットメディアで取り上げられ、ブログのPVが一気に増えた。また、2019年の冬には、毎年勤務校に一定数いる、不本意入学の学生について書いたところ、ちょうど大学入試の時期と重なったため、予想外にPVが増え、後日電話取材を受けたほどだった。4月は、学期はじめということもあり、ドイツ語辞書の選び方について書いた記事がよく見られていた。また、遠隔授業における動画作成について書いた記事が人気を集め、大学の広報部から取材を受けたインタビュー記事が、勤務校のトップページに掲載された。


 ブログを書いていると、ありがたいことに、多くの友人や研究仲間から、書いた記事を褒められる機会がある。独文学会の全国学会や地方支部会など人が集まる場所に行くと、ブログの感想を話してくださる方がときどきいる。たいして研究活動がはかどっていないこともあり、人と話すのはブログのことばかりだ。私のブログを面白がってくれる方には、書籍化はしないのかと聞かれることもある。しかし私としては、ブログというメディアは、写真や動画を埋め込んだり、他の記事とリンクさせたりして、ウェブでしかできないことをする場だと考えている。そのため単純に書いた記事を書籍化するのではなく、何か別の形で写真や記事などをまとめ直した上で、旅行記やドイツ語教育についての本を出せればとは思っている。


 ブログで発信することの最大の意義は、少なくとも私自身にとっては、日々の散漫な自分の思考を整理する機会になっているという点である。授業や研究で気になっていたことを、時間をかけて言語化することで、穏やかな気持ちで日々を過ごすことができている。また、ブログを書くことは、多くの研究仲間や大学外の人たちと意見交換をするきっかけともなっている。そしてさまざまな人との交流は、教科書の執筆や雑誌での連載など、私の仕事の幅を広げることにもつながった。一方で、ブログを書くことは、それなりの達成感や承認欲求の満足をもたらしてくれるので、逆に研究活動に身が入らない原因ともなっている。昨今ではもはや、締め切りがない原稿、すなわち自分のブログ以外に文章を書くことはできなくなっているのかもしれないと不安になることもある。


 インターネットの世界を見ると、人気や社会的な需要の高い英語や中国語については、大学教員や現地の人がさまざまな情報を発信している。しかしドイツ語圏については、とりわけ日本の大学には少なからぬドイツ語教員やドイツ語学習者がいるにもかかわらず、インターネットを使った発信が十分にできているとはいいがたい。私自身のブログがドイツ語圏に関心を持つ人やドイツ語学習者にとって大いに役立つものと胸を張ることはできないが、少しでも学習や旅行のヒントになるような情報を届けられれば十分だろうと私は考えている。


熊谷哲哉(近畿大学)