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第71回ドイツ現代文学ゼミナールに関して (K.Tokunaga) [J]

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学術コラム
  投稿日: 2018-10-6 8:47
徳永恭子(近畿大学)
 ドイツ現代文学ゼミナールは1983年に始まり、毎年春と夏に一泊二日で開催されている。今年の夏の現文ゼミは、開催前から波乱含みであった。9月3日から琵琶湖畔で一泊の予定だったのだが、台風21号が近畿地方を直撃するかもしれないという予報がちらほらニュースで取り上げられ始め、予想から確実な警戒へと変わったのはゼミ数日前のことであった。ゼミ開始まで2日を切っている。6人の幹事の間で、開催すべきか、中止すべきか、はたまた延期すべきか、意見交換のメールが短時間で飛び交った。今年の災害は予想不可能、大事をとって開催だけはやめておいた方が良いと全員の意見が一致した。ホテルに連絡をすると、中止の場合はキャンセル料が発生するが、延期の場合は、たとえ参加人数が半分になろうとも、キャンセル料は一切徴収しないとのありがたい返事。次に心配なのは発表者のことである。この日のために苦労して準備をしている発表者たちから発表のチャンスを奪うのは忍びない。また次回に持ち越したとしても、その時に参加できるかどうかの保証はない。5名の発表者に一週間後に延期した場合、発表できるかどうかメールで問い合わせたところ、数時間のうちに全員から大丈夫だという心強い返事を頂いた。こうして一日のうちに、ゼミの延期が決定し、月曜開催予定のゼミの延期はギリギリの土曜に告知された。なかにはすでにチケットを購入している人、東京から大阪入りしている人、それどころかすでに会場のホテルに泊まっている人もいて、心が揺れた。延期したことで参加できなくなった人たちにも申し訳ない。空振りしたらどうしようという気持ちもあった。しかし今回の台風21号は予想をはるかに上回る猛烈なもので、関西は大打撃を受けた。鉄道は全て運休、あのまま開催していたら全員、琵琶湖から動けなくなっていたことだろう。本当に延期してよかったと幹事一同胸を撫で下ろした。
 春に箱根で35周年記念を迎えた後の第71回現代ドイツ文学ゼミナールはこうして思い出深いものとなった。参加者は当初予定していた24名から18名へと減ったものの、和気藹々とした会となった。共通テクストは、日本に題材をとったMarion PoschmannのDie Kieferinseln。デーブリーン、多和田葉子、オカルティズムと多彩なテーマの一般発表が続いた。いつも同様、愛情に満ちた厳しいコメントと適切な指摘が会場から投げかけられ、議論は活気に満ちたものとなった。一週間遅れの琵琶湖は、夏真っ盛りというわけにはいかず、去年のように泳ぐことはできなかったが、それでも夜には夏の終わりの記念にと、浜辺で花火をしたことが思い出に残っている。今回の現文ゼミで何よりも印象深かったのは、参加者全員の厚意である。幹事たちのチームワークはいうまでもない。延期したことで無理やり都合をつけてきた人もいるだろう。事情を察してのことだろう、労いの言葉には心が温かくなった。寄付をしてくださった方々もいる。現文ゼミはこうして先代から続く人々の厚意で35年も続いているのだということを改めて感じた。

 今は幹事の一人として現文ゼミに参加している私であるが、今までで一番記憶に残り、かけがえのない思い出となっているのは、この現文ゼミの共通テクスト発表である。それは私にとって初めて人前で行った発表であった。与えられた課題図書は、東ドイツ出身の女性作家Katrin Askanの Aus dem Schneiderだった。初めての発表という事もあり、きちんとした発表をせねばと気負っていたのか、何度も読み返して発表原稿を書いた。しかし何度書き直しても、満足できない。書けば書くほどひどくなって行く気がする。最初から持ち合わせてもいなかった自信も完全に崩壊し、自己嫌悪に陥った。そして発表当日ギリギリまでかかって書いた原稿を、絶望のあまり、明け方に破り捨ててしまった。このまま発表をキャンセルしたいという誘惑をどう振り切ったのかは覚えていない。ゼミ開催地である箱根行きの電車の中で、破られた原稿をセロテープで貼り直したのは覚えている。発表自体もうまくいったのかどうか覚えていないが、記憶に残っているのは、年をとれば面の皮が厚くなって緊張しなくなる、という女性参加者の言葉である。まさか、と当時は思ったが、本当にそうなるのが恐ろしいところである。初心を忘れないようにしなくてはならない。それはともかくとして、人から与えられたテクストで発表する機会はそうそうない。研究はある意味孤独な作業であるけれども、自分の世界から抜け出して、色々な人と交流し、知らないテクストに出会うことを可能にするこのゼミは貴重なものだ。若かりし頃の人生の思い出にもなるはずだ。若い研究者志望の方はこの貴重なチャンスをぜひ利用してほしい。そしてすでに若くない者も、春は箱根の温泉、夏は琵琶湖で、一つの場を共有し、共に時間を過ごしては、過去、現在、未来に思いを馳せることの幸福を共に味わえたらと思う。

 以後の現代ドイツ文学ゼミナール開催予定は以下の通り。
2019年 第72回 3月4/5日 箱根  第73回 9月2/3日 琵琶湖

徳永恭子 (近畿大学文芸学部教授)

ドイツ現代文学ゼミナール問い合わせ先 
GBS-Organisatoren まで GBS-Organisatoren@list.waseda.jp
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