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ザクセン=アンハルト州ハレ市の教育現場における難民受入れ ―多文化社会ドイツの一断面― (K. Fujita) [J]

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文化コラム
  投稿日: 2017-5-14 22:46
藤田恭子(東北大学)
 昨年8月末から約1週間、ハレ大学オリエント研究所(Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg, Orientalisches Institut)のクノスト博士(Dr. Stefan Konst)のご協力をいただき、シリア史を専門とする同僚の大河原知樹准教授とともに、ハレ市における難民の受入れ状況について調査を行った。そこで目にしたのは、難民の社会統合に向けて教育や行政の現場で進められている地道な努力であり、また各種の学校でドイツ語を学びながら将来を模索する難民、とくに若い世代の姿である。ドイツにおける難民受入れをめぐるメディア報道では、テロ事件、「ドイツのための選択肢 (AfD)」の支持拡大、「西洋のイスラーム化に反対する愛国的欧州者 (PEGIDA)」の反移民・反難民デモなどが取り上げられ目を引くことが多い。本稿では、それらとは様相を異にするドイツの一面について、ご報告したい。
 最初にいくつか数字を示しておこう。ドイツ政府に提出された庇護申請は2015年が476,649件、昨年は745,545件である(注1)。手続きの途上で統計に反映されていない庇護申請希望者も多いが、少なくとも2年で122万件余りの申請がなされたことになる。ハレ市が属するザクセン=アンハルト州は、この間に35,894人の難民を受入れた。ノルトライン=ヴェストファーレン州の263,492人やバイエルン州の149,642人と比較すれば多く感じないが、州の産業構造や人口比を考えれば、短期間でこれだけの数の難民を受入れて支援することが、ザクセン=アンハルト州にとっても並々ならぬ課題であることは理解できる。ハレ市の人口は2016 年末で州都マグデブルクをわずかに上回る239,738人だが、外国人の数は2016年末で19,741人となり、2014年末の12,032人から7,709人増加した(注2)。そのうち約3,500人がシリアからの難民である(注3)。
 庇護申請(希望)者の大多数はドイツ語を解することなくドイツに受入れられたが、学齢期の子供たちは義務教育を受ける。ザクセン=アンハルト州の小学校や中等学校では昨年、8月11日に新学年が始まった。われわれが各学校を訪問したのは、生徒たちが新しいクラスにも少し慣れはじめた時期である。

 最初に同市中心部のカール・フリードリヒ・フリーゼン小学校 (Karl Friedrich Friesen Grundschule) を訪問した。全校児童は約200人だが、その出身国は28か国にわたる。玄関先のボードには „HERZLICH WILLKOMMEN!“ の言葉とともに28の国旗が掲げられていた。ボードを見ていると、先生と一緒に校内を案内してくれていた児童の一人が「私の国の旗がない」といぶかった。その児童はクルド人で、「クルディスタン」は一般に「国家」とは認められていない。多文化社会におけるアイデンティティのありようを考えるとき、「国家」という単位だけでは捉えきれない、より複雑な様相を呈していることを痛感した。

 フリーゼン小学校では、ドイツ語を十分に理解できない児童のために特別クラスが2つ設置されていた。対象となる児童は、通常のクラスでの授業に参加するかたわら、毎日1時間から2時間を特別クラスで過ごし、ドイツ語を集中的に学ぶ。特別クラスの1年生向け授業では、4人の児童が先生とドイツ語のアルファベート „I“ について学んでいた。特別クラスの担任には、ドイツ人の教員の他に、レバノン出身でドイツ語やフランス語を完璧に話しドイツの教員免許を持つアラビア語話者の教員もいて、児童の意思疎通を助け、精神的にもサポートをしていた。なおハレ大学の教員養成センターでは、難民の経験を持つ児童・生徒と接する際に必要なスキルや配慮を身に着けるためのプログラム、あるいは教室で必要なアラビア語を学ぶクラスなどを教員志望の学生たちに提供している(注4)。現役の教員には地方自治体や州の教育局が同様の研修を提供しているとのことである。

 特別クラスの子供たちに、事前に保護者や学校の許可を得たうえでインタビューを行った。固定したビデオカメラに向かい、名前や出身地、好きな科目や苦手な科目、将来の夢などについて語ってもらったのだが、子供たちは好奇心いっぱいで我先にとカメラの前に座ってくれた。友達や兄弟姉妹がカメラの手前に集まり、インタビューに答えている子を興奮冷めやらぬ様子で見守り、その子が途中で言葉に詰まると助け舟を出す。10人以上に話を聞いたが、子供たちはそろって「学校が好き」と語り、また希望する将来の仕事を尋ねると、目を輝かせながら「お医者さん」「学校の先生」「弁護士」などを挙げた。好きな科目については「算数」や「ドイツ語」が多かったが、「音楽」と答えた子もいて、フルートが好きで練習をしている、という。「図工」という回答もあった。苦手な科目は「社会」が目立ったが、全く縁のなかった国にやって来た経緯を考えれば当然だろう。一人の女の子が、こちらをまっすぐに見ながら「ないです。全部好き」と言い切った様子も印象的だった。彼女は「先生になりたい」と話してくれたが、特別クラスの教員を深く敬愛していることはすぐに看取できた。どの先生も子供たちと真摯に向き合っており、それゆえに、彼らが成長とともに厳しい現実に直面するであろうことへの懸念も深い。その懸念は、懇談のなかで先生方がもらす言葉の端々からも読み取ることができた。

 ハレ市の中心部から市電で10分、ハレ=ノイシュタット地区にあるカスターニエン・アレー中等学校(Gemeinschaftsschule / Sekundarschule Kastanienallee)では校長や特別クラスの先生方にお話を伺った。この地区は1960年代、東独政権により化学工業の重点整備地域として開発がすすめられたが、東西ドイツ統一とともに基幹産業が競争力を失い、町は空洞化した。しかし空室が目立つ団地を中心に次第に多くの移民や庇護申請者が住むようになる。必然的に移民や難民の背景をもつ生徒を多く受入れている同校には現在、5年生から10年生まで約320人が学んでいる。また2013/2014年度より、基幹学校、実科学校、ギムナジウムの低学年を統合したコミュニティ学校 (Gemeinschaftsschule) という新たな制度をとっている。

 同校は、2013年よりいち早く、財政の裏付けに恵まれない状況のなか、現場の教員が工夫して難民の生徒への支援策をとったことで知られている。ドイツ語の知識がない生徒たちのために特別クラスを設置し、ハレ大学と連携して、アラビア語を学ぶ学生が授業を支援する体制を整えたのである(注5)。ハレ市はこの試みに対し、2014年より財政支援をはじめ、また子供と両親の双方に対し、ドイツでの受入れ当初に収容される難民施設内にドイツ語クラスを設置した。

 同校の先生方と懇談した際の校長先生のことばは、筆者にとって思いがけないものだった。「難民の子供たちについて、実は私はあまり心配をしていないのです」と述べたのだ。なぜなら、彼らや彼らの両親は、学校がとても大事な場所だ、自分たちの将来を切り開くための場所だと分かっている、その前提があれば、もろもろの困難は一緒に切り抜けることができる、というのだ。同校にはさまざまな境遇の子供たちが在籍しているが、中には親自身が学校の価値を認めない家庭も複数あるようで、校長先生はそのような家庭の子供たちの方により強い懸念を抱いていた。日々、生徒たちと向き合うなかで発せられたことばは説得力があり、難民問題に対する筆者の思い込みを打ち砕くものでもあった。

 ギムナジウムに通う14歳と15歳のシリア難民の姉妹に話を聞くこともできた。姉妹は2014年3月下旬にドイツにやって来たが、一言もドイツ語が分からなかったという。すでに小学校卒業済みの年齢であり、ドイツ語が分からないことから、当初は基幹学校に通学した。しかしシリアで英語を学んでいたことも大きな助けとなり、ドイツ語の運用能力を瞬く間に身に着け、それとともに数学や生物などで傑出した成績を収め、ギムナジウムへの転校を勧められたという。

 同僚の大河原准教授は、シリアの学校教育制度について、大枠は日本とほぼ同じ制度と考えてよい、と説明してくれた。ハレ大学のクノスト博士はシリア難民の子供たちについて、母国できちんと学校教育を受けており、避難先でもその教育を続けられる体制を用意することが重要だ、と考えている。シリアでの教育を生かしつつ、避難先での教育と接続させることで社会統合を図ることは、難民にとっても避難先の社会にとってもプラスになるはずである。そのような信念から、ハレ大学はハレ市内の諸教育機関と連携して生徒たちの受入れを進めている。

 ハレ市の教育現場で続けられているこのような努力は、難民への人種差別的言動に対し毅然と対処する同市当局の姿勢にも支えられていると思われる。

 2015 年 8 月 22 日(土)、ハレ=ノイシュタット地区中央広場で極右の「ドイツ国家民主党 (NPD)」が州の難民受入れ施設建設反対のイベントを計画した際、同市のヴィーガント市長や賛同する市議会議員らが、「ハレが世界に開かれていることを示すべく」同日朝に同地で野外朝食会を開催しようと呼びかけた。朝食持参で市民や数百人の移民・難民など、あわせて千人超が集まり、和気あいあいとした時間を過ごし連帯を確認するなか、NPD はイベントを断念した(注6)。この出来事以後ハレでは、極右による組織立った大規模なイベントは封じられており(注7)、同じ旧東独地域のライプツィヒやドレスデン等と異なる。

 また同年 9 月、難民が急増するなかで、ハレ市での難民受入れが他の自治体と異なり大きな問題を生じることなく進んでいる理由を問われた市長は、数か月前から事態を予測し、難民が日常生活に移行しやすいように集中管理型でない宿舎を多数確保するとともに、担当部局を増強する等、態勢を整備していた、という旨の回答を行った(注8)。難民や移民を社会に統合し差別をなくすことが、受入れた地域社会にとってもプラスになるという固い信念を見て取ることができる。またそれはハレ市が東西ドイツ統一以後、基幹産業であった化学工業の凋落により人口減少に悩んでいた事態への現実的対処でもあっただろう。

 しかしハレ市やその諸教育機関を取り巻く情勢は次第に難しい様相を呈している。昨年3月のザクセン=アンハルト州議会選挙では、AfDがはじめて議席を占め、87議席中25議席を得て、30議席のCDUに次ぐ第2党となった。同州ではCDUとSPDおよび緑の党/同盟90による大連立政権が発足したが、AfD支持者の存在も意識せざるをえない。昨年11月、同州は、難民や移民の背景を持つ児童・生徒用特別クラスのため州内の各学校に配置していた230名の教員のうち105名を12月31日の任期切れ後に契約更新しない方針を決定した(注9)。学校年度中の教員削減を反対する強い声が教育関係者を中心に挙げられたが、決定を覆すことはできなかった。

 このような状況にあっても、クノスト博士と連絡を取り合うメールは、学校現場で出会った人々がそれぞれにとり可能な範囲で努力し続けていることを伝えてくれている。メディアで伝えられる大きな声だけでなく、さまざまな場所で出会った一人一人の言葉と姿をも心にとめて、多文化社会ドイツを見つめていきたい。

(注1) Bundesamt für Migration und Flüchtlinge, Aktuelle Zahlen zu Asyl (12 / 2016), S. 4. http://www.bamf.de/SharedDocs/Anlagen/DE/Downloads/Infothek/Statistik/Asyl/aktuelle-zahlen-zu-asyl-dezember-2016.pdf;jsessionid=FC3E37570CE36AD892CEF7C71253ACD2.1_cid359?__blob=publicationFile(最終閲覧2017.2.4.)
(注2) http://www.halle.de/de/Verwaltung/Statistik/Bevoelkerung/Einwohner-mit-Hauptw-06101/ (最終閲覧2017.2.4.)
(注3) Silvia Zöller, Integration in Halle: So viele Flüchtlinge leben derzeit in der Saalestadt. In: Mitteldeutsche Zeitung, 12.12.2016.
(注4) 同センターのHPを参照。
http://www.zlb.uni-halle.de/aktuelles/studienbegleitprogramm/#anchor2955307(最終閲覧2017.3.18.)
(注5) この試みにより同校は、ザクセン=アンハルト州異文化間教育賞(Landespreis für interkulturelles Lernen)を受賞している。それを報じる記事には一連の経緯が簡潔に記されている。Hoyer, Dreen: Arabisch hilft in der Deutschstunde. In: Mitteldeutsche Zeitung, 2. 10. 2014.
(注6) Jan Möbius, Silvio Kison, Detlef Färber: Kaffee statt Hass; „Frühstück für Weltoffenheit„ in Halle. In: Mitteldeutsche Zeitung, 23. 8. 2015.
(注7) 2016年9月2日実施のハレ市移民統合専門官ペトラ・シュノイツァー氏へのインタビューにおける情報。
(注8) MZ-Gespräch zum Thema Flüchtlinge –Teil.2: Wiegand: „Wir setzen in Halle auf eine starke Willkommenskultur“. In: Mitteldeutsche Zeitung, 13. 9. 2015.
(注9) Sylke Kaufhold, Unerwünschtes Ende. In: Mitteldeutsche Zeitung, 9. 11. 2016.

藤田恭子(東北大学)
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