「ドイツ語教育・学習者の現状に関する調査」を終えて (T. Ohta) [J]   作成日:2015/10/01
 2011年10月に金沢大学で開催された学会理事会の席上で、当時の室井禎之会長より、日本のドイツ語教育に関する大規模な実態調査を行いたいとの提案が示された。これを受け、学会では「ドイツ語教育・学習者の現状に関する調査委員会」が設立され、私がその委員長を務めることとなった。このときすでに私は2012年秋からドイツに長期滞在することが決まっていたため、調査デザインを検討する準備の部分までなら、ということで委員長の役目を引き受けた。
 この種の大規模な調査は1999年以来ということで、私の呼びかけに対し多くの仲間が賛同の意を表明し、みなそれぞれ「超」がつくほど多忙であるにもかかわらず、委員として活動に協力してくれることになった。いずれもドイツ語教育界で中心的な役割を果たしている優秀な方々であり、最強の布陣を整えることができて、私としても大変心強く感じた。資金面では、Goethe-Institut Tokyoより10,000ユーロの援助をいただき、またHueber社からもご支援をいただいた。

 委員会において全体の調査デザインについて協議を重ねるうちに、ドイツ語教員・ドイツ語学習者を標本対象とした調査をするにあたっては、まず全国でドイツ語教育が行われている教育機関すべてを対象とした全数調査が必要であるとの認識に至った。そこで、第1回調査ではその全数調査を行い、第2回調査ではドイツ語教員・ドイツ語学習者を対象とした標本調査を行うこととした。

 さて、「言うは易し行うは難し」とはこのことで、全国でドイツ語教育が行われている教育機関を調べるといっても、その種のリストが簡単に入手できるわけではない。おまけに、同じひとつの大学でも学部やキャンパスによって事情は異なる。そこでまずは、ドイツ語の授業が開講されている全国の教育機関(大学・高専・短大・高校)と、大学の場合はそのすべての学部名および所在地をリストアップする、という気の遠くなるような作業から取りかかることになった。このときには、ドイツ語教科書協会とサーベイリサーチセンターの方々にもお力を貸していただいた。

 そうこうするうちに、私が渡独する2012年秋が来てしまった。渡独前の委員会での話し合いで、ここまでもメールのやりとりで統括できたのだからドイツに行ってもこのまま太田が指揮を執れ、ということになり、委員長として引き続きドイツからプロジェクトの舵取りを行うこととなった。こうして第1回調査が2012年11月から12月にかけて実施され、2013年5月の春学会での結果発表に向け、委員全員が一丸となって「中間報告書」の執筆にあたった。

 第1回調査では、ドイツ語履修者数の推計という重大な課題が課せられていた。回収率を少しでもあげるために、室井元会長が全国の教員に協力を依頼する個別メールを送付したことも功を奏し、回収率は約40%に達したが、問題は回答のなかった約6割のところの数字をいかに推計するかである。この推計の方法によって、推計値は大きく変わってくる。サーベイリサーチセンターの助言を受けて最終的に委員会がとった方法は、回答のなかった学校におけるドイツ語履修者数の推計については回答のあった同種の学校の在学者数に占めるドイツ語履修者の割合の(平均値ではなく)中央値を用いて推計を試みる、というものである。平均値を採用してしまうと、数値が上の方に引っ張られがちだからである。ちなみに、高校でのドイツ語履修者数については文部科学省が毎年公表しているのだが、われわれが上記の方法で推計した数字では3,634名、一方、文部科学省のデータでは3,348名であったので、われわれの推計方法はあながち的外れではなかったと言えるだろう。

 さて、ドイツでの研究滞在を終える2014年春までに私は、ハレ大学に博士論文を提出しなければいけないことになっていた。しかし学会の第2回調査の方も入念に準備しなければならない。というわけで、ドイツにいながらにして学会の調査と自身の学位論文執筆(テーマは学会の調査とはまったく別のもの)という2つの大きなプロジェクトを同時並行で進めていった。かなりハードではあったが、最終的にはどちらの仕事もなんとか完成させることができた。

 サンプリング調査となる第2回調査の実施にあたっては、学科系統・設置主体・地域に偏りが生じないよう、綿密な選定プランに基づいて、対象となるクラス(学習者)および教員を抽出した。質問票をクラスで配っていただくことになるため、事前に調査への協力の承諾を得たうえで、質問票を送付した。そのため、回収率は100%となった。2014年6月から7月にかけて実施した第2回調査の結果については、2015年の春学会で発表し、第1回の調査結果とあわせて、全体の報告書を日独両言語で学会ホームページにアップしてある(http://www.jgg.jp/modules/neues/index.php?page=article&storyid=1435)。この場を借りて、調査および報告書の作成に協力してくださった方すべてに対し、心から御礼申し上げる。

 なお、報告書の執筆にあたっては、学会として何らかの主張を行うのではなく、もっぱら調査結果を客観的に記述することにつとめ、結果を踏まえた解釈や提言は極力行わないという立場を採った。というのは、今回の調査の目的が、まずはドイツ語教育・学習者の実態について信頼のおける基礎データを獲得し提供する点にあったからである。調査を主導した者としては、この報告書がドイツ語教育に関わる方々の教育・研究活動のリソースとして広く活用されることを強く願っている。

 最後にひとこと。私は自分から「あれもやりたい」「これもやりたい」と仕事を広げているつもりはないのだが、頼まれるとなかなか断れない性格のせいか、気がつくといろんな役割が回ってきている。とはいえ最近は昔ほど体力的に無理もできなくなってきた。幸い最近は優秀な若手研究者がたくさん育ってきているので、次回の実態調査はぜひとも次世代の方々におまかせしたいと思っている。というわけで、若手のみなさん、次回はどうぞよろしくお願いします!

太田達也(南山大学 / 「ドイツ語教育・学習者の現状に関する調査委員会」委員長)