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ハノイ大学ドイツ語学科訪問記 (J. Kuriyama) [J]

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外国語教育コラム
  投稿日: 2015-3-26 16:14
栗山次郎 (九州工業大学名誉教授)
 私は一昨年(2013年)からしばらくベトナムのハノイ市で日本語を教えていました。その間に何度かハノイ大学外国語学部日本語学科を訪問しました。そこでの何かの話の折に日本語の先生に、ドイツ語学科はありますか、と尋ねたことがあります。ありますよ、1階上の階ですよ、という答えでした。2014年秋にふとこの話題を思い出し、そこに行けばベトナムのドイツ語教育のことが聞けるかもしれないと思いいたりました。知人にこの思いつきを話すと、それだったら学科長の先生が詳しいだろう、と言って Duong Thi Viet Thang 先生を紹介してくれました。先生にメールを書いたところ、12月31日には少し時間があるので大学で会いましょう、という返事をいただき、大晦日に大学を訪問することにしました。その様子を報告いたします。
 ベトナムでは職場も学校も「お正月」を旧暦で祝います。太陽暦の1月1日は休日ではありますが、少しお祝い気分の濃い休日に過ぎませんし、12月31日は休日前のごく普通の日です。大晦日の雰囲気はありません。私は大学近くのレストランで少し早目の昼食を済ませてハノイ大学に入りましたが、授業が行われており、二輪車置き場にはバイクと自転車が並び、キャンパスには学生の声が溢れています。とは言え、学生数はいつもより少ないように思いました。2015年は1月1日から4連休になるので、自主的に5連休にする学生が多いのかもしれません。
 昼休みの時間になったので、外国語学部の建物に入り、教えられていた5階のドイツ語職員室に行きます。入室するとベトナム語で挨拶され、用件を尋ねられます。ドイツ語で応えますと、「ベトナム人とお見受けしました」とのことで、以後はドイツ語で対応してくれました。何の連絡もなく部屋に現れた東洋系の顔をした人物がドイツ語をしゃべるとは思わないでしょうし、それほど部外者が出入りするわけではない職員室にのこのこ現れた東洋系の顔だからベトナム人だろう、と思ってベトナム語で話しかけたのは無理もないことではあります。
 しばらくしてDuong 先生が職員室に来ます。授業の間の休み時間ですから1時間に満たない間でしたが、学科長室でDuong 先生の専門や私の経験などをはさみながら、ベトナムのドイツ語教育の概略をお聞きしました。要点は以下のようです。私はベトナムに行く前は中国にしばらくいました。その前にキューバのハバナ大学を訪問したこともあります。その様子も話題になりましたので、話柄に上った事柄に関してのみここにも少し書きます。

 (A) ベトナムで大学レベルのドイツ語教育が始まったのは1967年です。この年にハノイ外国語大学にドイツ語学科が設置されたのです。ハノイ外国語大学は後にハノイ大学に統合されます。現在のハノイ大学外国語学部の母体です。
 以来48年になりますが、現在、大学レベルでドイツ語学科があるのはハノイ大学、ハノイ国家大学、ホーチミン国家大学の三国立大学です。つい先年まではこれらの学科は学部だけで、修士課程は設置されていませんでした。ドイツ語の先生を目指す卒業生は修士を持っている方が就職に有利なので、修士を取るために外国の大学に留学しました。修士課程が設置されている一番近い大学はタイのバンコクの大学なので、バンコクで修士課程を修了したドイツ語の先生がたくさんいます。現在はベトナムのこれらの三大学にも修士課程が設置されつつあります。
 私は2007年に中国で日本語を教え始めました。その頃は中国の大学では文系の先生の大部分は学部卒でした。私が勤務した安徽省の大学では外国語学部学部長も学士でしたし、日本語学科の日本語の先生は、一人しかいませんでしたが、学部卒でした。その後、文系でも先生は修士取得者のみと(おそらく国レベルで)決められたようで、私が年齢制限で退職をした2012年には、その時には日本語学科の先生は七名に増員されていたのですが、2008年からいらっしゃったお一人を除いて修士課程修了者でした。大学の先生は修士取得以上と決めたからといって、学士の先生が冷遇されるわけではありません。修士を持っていない先生には2年間の有給休暇を与えて修士課程で勉強させるのが一般的です。ですから意欲さえあれば、在職したまま学歴を積むことができます。後になって聞いたのですが、学部長は長期休暇を返上して他大学の修士課程を履修、修了したとのことでした。
 中国の多くの分野での急速な変化について述べても「今さら」の感がありますが、大学のレベルアップについてもこのようです。おそらく近いうちに文系でも、理系同様に、大学の先生はPh.Dが一般的になるかと思います。そしてドクターを持っていない先生にはマスター取得に似たシステムを採用すると思われます。
 現在も中国の各地の大学では日本人日本語教師の募集が多く行われています。数年前からですが、募集の書類には修士や博士にはかなり高い割増給与を支給する旨が明記されるようになりました。

  (B) 現在のハノイ大学ドイツ語学科の学生数は1学年約75名、4学年で約300名です。クラス数は1学年4クラス、総計16クラスあります。ベトナム人の先生は16名、ドイツ人の先生は3名います。
 授業は1コマ90分で午前2コマ、午後2コマ。午前と午後の前半と後半の授業の間にはそれぞれ30分の休憩があります。朝は7時15分に始まるそうですから、学生さんも先生も早起きしなければなりません。ドイツ語学科の授業科目は文法、読解、作文、ヒアリング、会話、音声学、貿易実務、ドイツ事情、ドイツ文学、ドイツ文化、ドイツ語通訳などです。通訳が重要視されています。ドイツ事情やドイツ文化も通訳をスムーズに進めるための知識と位置付けられているようです。
 ずいぶん昔のことですが、中国で開催されたアジア・ゲルマニスト会議に出席した折に、中国の先生が、「ドイツ語教育の目的は読む、書く、聞く、話す、通訳の五つ」と話しているのを聞き、一瞬「通訳」は聞き違いかと思いました。その後も中国の多くの先生方から同じことを聞きました。それまでは言語学習の目的は読む、書く、聞く、話すの4要素と習っていたのですが、以後は通訳を加えて5要素と考えるようにしています。ベトナムで改めてこのことを思い出しました。
 1年生では文法が重視されていて、時には2コマ続けて文法という曜日もあります。同じ先生に3時間続けて文法を習うのはきついでしょうが、気楽に受講しているのかと思います。4年生はドイツ事情や通訳が主要な授業です。
 中国の大学ではキャンパスでの授業は3年までで、第7学期になると授業は週に数日だけです。第8学期は授業はありません。学生さんはインターンシップ(=就職活動)と卒業論文に集中します。第7学期から(インターンシップという名目で卒業後の就職先で)働く学生さんもいます。これは恥ずかしいことではなく、第8学期になってもインターンシップ先が決まらない学生さんの方があわてています。学生さんにとっても、大学にとっても就職が大切なのです。そして会社は採用に際しては経験を重視するので、学生さんは卒業までに何らかの形で就業の実績を積もうとするし、大学もそれを勧めているのです。この様子を話しますと、ベトナムでは4年後期までキャンパスで授業をしている、とのことでした。
 大学ではマルクス・レーニンの思想、共産主義の思想、ベトナムの歴史、スポーツなども必須です。日本の大学のカリキュラムは(外国語や体育などの)大学レベルでの必修科目、(他学部や他学科で開講している)学部レベルでの関連科目、学科専門科目の三層体系ですが、ベトナムでは(思想やスポーツという)大学レベルでの必修科目と学科専門科目の二層体系です。他学部の、または学部内の他学科の授業を受けるというシステムはありません。中国の大学のカリキュラムも二層受講システムです。その点では中国とベトナムは似ていますが、中国の外国語学部では情報関連科目が必修でした。学生さんはプログラムの基礎やマイクロソフト・オフィスの使い方を受講していました。ハノイ大学の外国語学部にはこのカテゴリーの科目はないようです。 

 10年も前のことですが、キューバのハバナ大学のドイツ語学科を訪問したことがあります。卒業生の多くは政府機関に就職したり、ドイツ語教師になったりする、とお聞きしました。このことも話してみました。ハノイ大学の卒業生の 1/3 は普通の会社への就職、1/3はドイツ語を使用する企業や団体への就職、1/3は進学や留学だそうです。

 この日ドイツ語学科の職員室では男性の先生は見かけませんでした。以前に何度か訪問した日本語学科の職員室でも男性の先生を見かけたのは一人だけでした。この日廊下を歩いていたら幾つかのクラスで学生さんが手を振って挨拶してくれます。そのクラスに入ってしばらく話をしました。ドイツ語学科、韓国語学科、日本語学科のクラスでしたが、どのクラスでも男子学生は数人で、ほとんどは女子学生でした。ベトナムでは外国語の学習者も先生も女性が圧倒的多数です。私が勤務していた中国の大学の外国語学部でも男子学生は1/3~1/4でした。男性の先生は、男子学生が少ないと、それを嘆いていました。そして先生の90%は女性でした。女の先生は、男性教師が少ないと、それを嘆いていました。

  (C) ベトナム全体でドイツ語の先生は、ハノイ大学、ハノイ国家大学、ホーチミン国家大学の三国立大学やホーチミンとハノイにあるゲーテ・インスティトゥートやその他のドイツ語を教える幾つかの学校を合わせて、総数で約100名です。これらの先生方が四年前にベトナム・ドイツ語教師協会 (Vietnamesischer Deutschlehrerverband, VDLV) を設立しました。
 VDLV は対内的には隔年で研究発表会を開いています。対外的にはIDV及び(タイ、ラオス、インドネシア等の)南アジア諸国のゲルマニスト協会と交流しています。近年はインドのゲルマニスト協会ともコンタクトを密にしています。
 
 (D) ベトナムでのドイツ語教育の概略は以上のようですが、Duong先生から次のようなお話もお聞きしました。
 アジア・ゲルマニスト会議のことはベトナムでも話題になることがあります。ベトナムのゲルマニストの多くは、ベトナムと日本は隣国ではありませんが、日本独文学会や日本のゲルマニストと交流したいと思っています。 
隔年で開催されるVDLVの学会が今年(2015年)10月16日、17日にハノイで開かれます。担当校はハノイ国家大学です。日本のゲルマニストの参加を歓迎します。
 この学会について、または VDLV 自体、さらにはベトナムのゲルマニストの研究について関心のある方はFrau Prof. Duong Thi Viet Thang 先生に連絡してください。Duong先生から詳しく説明していただけます。(先生のメールアドレスはthangdtv////hanu.edu.vnです[ //// は @ に変えてメールしてください。] )
 
 これらのお話が終わって、先生は授業に行き、私は廊下に出ます。廊下を歩いていると、前記のように、いくつかの教室で学生さんが手を振ってくれました。教室の入口近くの学生さんと話をします。先生がクラスに来ます。私はまた廊下に出ます。
 外国語学部の建物の外に出ると日差しは強く、校庭では学生さんがショートパンツで体育の実技をしていました。気温は25度ぐらいあったと思います。小春日和ならざる、小夏日和の、日本の大晦日の雰囲気とはほど遠いベトナム、ハノイの12月31日でした。


栗山次郎 (九州工業大学名誉教授)
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